地球上の耕地面積の約1/3が塩害被害を受け、作物の生産性が著しく低下している。高塩土壌でも生育可能な耐塩性植物アイスプラントがどのように耐塩性を獲得しているかを分子レベルで明らかにすることを第一の目的としている。 前年度までにRNAシークエンシングを用いてアイスプラント内塩応答性遺伝子のデータベースを整備しており、今年度はこのデータベースから幾つかの遺伝子を選抜しその機能解析を中心に行った。その中でもMADS box型DNA結合ドメインを持つアイスプラント特有の転写因子はシロイヌナズナで過剰発現させると塩応答性が上昇することが見出された。この遺伝子をデータベース上でそのオルソログを探索すると、リクチメンやテンサイといった比較的耐塩性の強い植物種のみにオルソログが存在することがわかった。この転写因子は核に局在していた。この転写因子過剰発現シロイヌナズナを用いた解析を進めたが、T2世代において強いサイレンシングを受けてしまい後代を用いた解析を進めることができなかった。そこで、まずはアイスプラントの根を用いたin situ hybridizationを行った。このMADS box転写因子は未処理時ではほとんど根端で発現していなかったが、140 mM NaCl処理後は根端メリステム領域での強い発現誘導を示した。この結果はこの転写因子が塩応答時に根端メリステムの細胞分裂に関わることを強く示唆している。 アイスプラントは形質転換法が確立されていないので、アイスプラントのプロトプラストを用いた一過性発現解析の系の確立を目指した。その結果アイスプラントプロトプラスト中で当該転写因子の一過的発現を確認することができた。 今後は一過性発現系やシロイヌナズナでの誘導発現株を用いた遺伝子機能の解析を進め、アイスプラントの持つ耐塩性メカニズムの分子メカニズムに迫ることができると考えられた。
|