研究課題/領域番号 |
26870264
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
石川 由希 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70722940)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 行動進化 / フェロモン / 求愛歌 / ショウジョウバエ |
研究実績の概要 |
本研究は、モデル生物であるキイロショウジョウバエ(以下キイロ)とその姉妹種をモデルとし、異種への好みの種間差の神経基盤を同定する。これまで、特に①フェロモンと②求愛歌に対する選好性に着目し、これらの種間差の神経基盤を解明してきた。
①フェロモン選好性の種間差の神経基盤を解明するため、キイロのフェロモン成分である7,11-ヘプタコサジエン(7,11-HD)を好むキイロと、7,11-HDを嫌うキイロとオナジショウジョウバエ(以下オナジ)の雑種のフェロモン選好性に関与する神経回路を比較した。本年度はニューロンの活動履歴をGFPにより可視化することができるCaLexAシステムを用いて、ppk23, ppk25ニューロンの7,11-HD応答特性を比較・定量した。その結果、キイロメスに対してよく応答する神経細胞集団は、キイロと雑種で異なることがわかった。これは、ppk23ニューロンの7,11-HD応答性により、キイロと雑種のフェロモン選好性の違いが生じていることを示唆している。さらに前脚の切除実験により、雑種やオナジにみられるキイロに対する負の選好性には、ppk23, ppk25ニューロン以外の未知の抑制性神経回路が関与することが初めてわかった。 ②求愛歌選好性に関しては、前年度において特に顕著な聴覚応答行動の種特異性を示すことが明らかになったセーシェルショウジョウバエ(以下セーシェル)とキイロに関して、求愛歌の情報処理に関与する神経回路を比較した。セーシェルとキイロの触角に蛍光色素を注入し、聴覚一次ニューロンの投射領域を可視化し、比較した。その結果、聴覚一次ニューロンのうち求愛歌などの振動刺激に応答するニューロンの投射部位であるA, B領域、さらにE領域に種間差があることが示された。さらに、キイロショウジョウバエの聴覚応答特性を個体レベルで解析するために、新しい聴覚応答行動解析実験系SMART(Single male response test)を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
①フェロモン選好性に関して 当初の計画通り、フェロモン選好性に関与するppk23ニューロンを入り口とする神経回路に関してキイロと雑種を種間比較し、ppk23ニューロンの7,11-HD応答性の違いがフェロモン選好性の種間差をもたらす可能性を初めて示した。また、雑種やオナジにおける前脚の切除実験により、ppk23,ppk25ニューロン以外の味覚ニューロンを入り口とする未知の求愛行動抑制神経回路の存在が新たに示唆された。この抑制性神経回路は、単体の化合物7,11-HDに対する選好性の正負が逆転するという本研究の主題の中心を担う回路であると考えられる。このため、当初の研究計画を延長し、この抑制性回路の同定を目指して現在スクリーニングを行っている。 ②求愛歌選好性に関して 当初の計画ではキイロとオナジの求愛歌処理に関与する神経回路を種間比較する予定であったが、この2種の求愛歌選好性がそれほど明確に区別できなかったため、さらに近縁2種を加えて聴覚応答行動の種特異性が明確な種を探索した。その結果、同じくキイロの近縁種であるセーシェルが顕著な聴覚応答行動の種特異性を持つことが明らかになった。さらにキイロとセーシェルにおいては聴覚一次ニューロン数やその投射領域に種間差があることを初めて発見し、求愛歌選好性の種特異性に関与しうる神経回路を初めて同定した。このことは、求愛歌を受容する入り口である聴覚一次ニューロンにおいて既に種間差が存在している可能性を強く示唆している。この発見をさらにハイインパクトなものにするために、当初の研究計画を延長し、現在一次ニューロンにおける振動応答特性の種間比較を行っている。
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今後の研究の推進方策 |
①フェロモン選好性に関して 本研究により、キイロとオナジの7,11-HD選好性の種間差は、(A) ppk23ニューロンを入り口とする求愛行動促進神経回路の反応性の違いと,(B) ppk23ニューロン以外の味覚ニューロンを入り口とする求愛行動抑制回路の存在の有無によって生じることが強く示唆された。このことは、ごく近縁種におけるフェロモン選好性の転換にさえ、複数の神経回路の進化的変化が必要であることを示している。今後は (A) ppk23ニューロンの応答特性をカルシウムイメージング法によって確かめ、また (B)新たに示唆された抑制性回路の入口となる味覚ニューロンを特定することで 、フェロモン選好性の種間差をもたらす神経ネットワークの進化的変化を具体的に特定する。 ①求愛歌選好性に関して 本研究により、ごく近縁種でありながら異なる求愛歌選好性を示すキイロとセーシェルの聴覚一次ニューロンに種間差が存在することが明らかになった。今後はさらにこの聴覚一次ニューロンの種間差と求愛歌選好性の関連を確かめるために、これらのニューロンの求愛歌に対する応答性を、カルシウムイメージング法を用いて比較する。これにより、求愛歌選好性の種間差をもたらす神経回路の進化的変化を明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度の研究成果により、フェロモン選好性の進化的変化に関して、新たな求愛活性抑制性神経回路の存在が示唆された。これは本研究で注目している「7,11-HDに対する選好性の正負が近縁種間で逆転する」という現象の根幹を担う神経回路である。そこで、当初の研究計画を延長し、この抑制性回路の同定を目指して、現在新たな味覚ニューロンのスクリーニングを行っている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額を用いて現在研究室にある行動解析システムを拡張し、早急に上記味覚ニューロンのスクリーニングを完結させる。
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