研究実績の概要 |
本研究は、モデル生物であるキイロショウジョウバエ(以下キイロ)とその姉妹種を用いて、同種と異種とを識別する種間認識システムの種間差を同定することを目的とする。本研究では特に、①化学感覚(フェロモン選好性)と②聴覚(求愛歌選好性)の2つのモダリティに着目し、これらの情報を処理する神経回路を近縁種間で比較する。
①キイロ♂と姉妹種オナジショウジョウバエ(以下オナジ)♂では、キイロ♀フェロモン7,11-ヘプタコサジエン(以下7,11-HD)に対する選好性が明確に異なる。このフェロモン選好性の種間差をもたらす神経機構を解明するために、7,11-HDを受容し求愛を促進する神経回路を構成する各ニューロン群に着目し、その形態や機能をキイロと雑種において網羅的に比較した。それぞれのニューロン群の形態に明確な差異はなかったが、高次ニューロン群の機能はキイロと雑種で保存されているのに対し、末梢ニューロン群の機能は異なることがわかった。さらにこの末梢ニューロン群と下流ニューロン群のシナプス接続をGRASP法により観察すると、この接続が雑種においては喪失していた。 また、前年度の解析結果から予想されていた、雑種やオナジにある7,11-HDを受容し求愛を抑制する未知の神経回路の入口となる味覚ニューロンの特定にも成功した。神経毒素発現系統を用いてスクリーニングした結果、特定の味覚受容ニューロンの活動抑制が、雑種のキイロ♀への求愛を促進させることがわかった。 ②キイロとオナジは求愛歌に関しても異なる選好性を持つ。この種間差をもたらす神経機構を解明するため、オナジにおいて聴覚神経回路の各ニューロン群の形態や応答特性を比較するためのトランスジェニック系統の作成を行い、聴覚一次ニューロンの一部を標識する系統を得た。
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