研究課題/領域番号 |
26870265
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
井村 敬一郎 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (10444374)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 励起子絶縁体 / 高圧物性 / 光物性 |
研究実績の概要 |
電子とホールの束縛状態である励起子(エキシトン)は光励起によって生成し、通常は短寿命で再結合する。一方で、基底状態としてのエキシトンの生成は、理論的には予測されているものの、実験的には明らかになっていない。本研究では、無限の寿命を持つエキシトンの存在と、そのボーズ凝縮(エキシトニック絶縁状態)を実験的に見出すべく、絶縁体・金属転移を示す典型物質であるSmSの臨界圧力近傍に着目をして研究を進めている。本年度の実績は下記の通りである。 (1)単結晶試料育成環境の整備:SmSは高融点・高蒸気圧を有するため、試料合成には極めて多くの手間と困難を伴う。特に汎用旋盤を用いたタングステン坩堝の切削は熟練した職員が行っても超硬ドリルの破損が頻発し、金銭的ロスが大きい。ドリル破損を抑えるためには、タングステン切子の排出をスムーズにすることが重要である点に着目した。ボール盤を用いて新たな切削システムを構築し、高硬度材料を用いた坩堝切削による時間的・金銭的コストの削減に成功した。 (2)高圧下比熱測定システムの開発:これまでの圧力下における比熱測定は、最大発生圧力が1 GPa程度に抑えられており、且つ、測定バックグラウンドとなりうる圧力媒体と、それを封じるテフロンセルの熱容量が大きな圧力依存性を示し、試料の比熱が精度よく求まらないことが問題であった。本研究では、最大発生圧力が2 GPa程度のセルを新たに用い、液体媒体を封じる容器を金属製のものに変更することで、圧力変化をし得るバックグラウンドの寄与を大幅に削減することに成功した。また、測定最低温度も従来の550 mKから350 mKと大幅に改善された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度当初に計画していた内容は、(1)SmSの純良単結晶作成と(2)3He温度域における圧力下比熱測定システムの開発(バックグラウンド測定)である。各項目ごとの達成状況は下記の通りである。 (1)現在のところSmSの純良試料のストックは十分である為、本年度は新たな単結晶は育成は行わなかったが、概要にも記した通り、必要時にはすぐに育成を行える環境の整備を進めた。 (2)従来よりも最高到達圧力の高い圧力セル、およびアデンダの設計・作成を行った。液体媒体を封じるカプセルをテフロンから金属製のものに変更し、バックグラウンドの圧力変化を大幅に減少させた。現在は液体媒体の比熱の圧力依存性を調べている。 以上より、本研究課題はおおむね順調に進展しているといえる。
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今後の研究の推進方策 |
(1)単結晶育成に関しては、試料のストックの状況を見て、速やかに行う準備は整っている。また、物理圧力下における実験が極めて困難な手法(光電子分光など)に際して、化学圧力効果を期待し、Sm1-xYxS (x:0~1)の単結晶育成も試みる予定である。 (2)SmSの臨界圧力近傍における比熱測定を行い、エキシトンの生成、及びボーズ凝縮に伴う相転移を熱力学的物理量を通して直接観測することを目指す。精度不足により実験が困難の場合は、比熱測定とほぼ同様の情報が得られる熱膨張測定を圧力下において行う。 (3)高輝度放射光を用いたX線吸収分光を用い、Sm L3吸収端の部分蛍光収量法により、Smイオンの価数の温度・圧力・組成依存性を詳細に追い、電子状態の直接観測を行う。(2)において得られる、熱力学的相図の解釈の一助とする。
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