研究課題/領域番号 |
26870266
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
青木 一郎 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 研究員 (60725258)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 記憶 / 神経回路 / C. elegans / 温度走性 |
研究実績の概要 |
本研究では,記憶更新の分子・神経回路メカニズムを明らかにするために,神経回路の接続地図(コネクトミクス)が完全に明らかになっている線虫C. elegansにおける,温度走性行動の可塑性を指標として,順遺伝学的スクリーニングと変異体の解析を行っている。温度走性とは、線虫が餌の存在と環境の温度を関連させて学習し,餌のない温度勾配上において過去の飼育温度へと移動する行動である。この温度走性行動は可塑的であり,飼育温度を変化させると線虫は3時間ほどで新しい温度を学習する。 本年度は実際にスクリーニングを行って,記憶更新が遅くなるような変異体を得た。興味深いことに,この変異体は飼育温度を低温から高温へと変化させた際には学習が遅かったが,高温から低温への変化に対する学習は正常であった。 さらに,ポジショナルクローニングと遺伝学的解析によって上記表現型があるカリウムチャネルの機能獲得変異に起因することを見出した。ポジショナルクローニングは,スクリーニングに用いた英国産のN2とは別の,カリフォルニア由来の系統CB4858と変異株を交配させて行った。N2とCB4858との間には一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism, SNP)が多数同定されており,交配株のうち異常な表現型を示す系統が共通に持つゲノム領域を特定することが可能である。 今後はこのカリウムチャネルの変異が,温度走性の神経回路にどのような変容をもたらすことで,結果として行動を変化させるのかを,実際にニューロンの活動をモニターすることで調べていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
設定した計画のとおり,記憶の更新が遅い変異体の単離と,その原因遺伝子の同定ができたため。 実際に変異体が得られ,また変異体の原因遺伝子が同定できたことで,記憶更新の際に,温度走性の神経回路を構成するニューロンの活動がどのように変化することで,行動変化を生成するのかを探索するための橋頭堡が築かれた。
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今後の研究の推進方策 |
まず,スクリーニングによって得られたカリウムチャネルの機能細胞を特定する。そのために,GFPなど蛍光タンパク質とのフュージョンを,元の遺伝子のプロモーターの下流で発現させて,その遺伝子が発現する細胞を特定する。また,細胞内局在も併せて調べる。さらに,それぞれの神経細胞特異的なプロモーターの下流で上記カリウムチャネルを発現させたときに学習が遅い表現型が現れるかを調べる。 また,カルシウムインディケーターや膜電位インディケーターなどを用いて,機能細胞および他の温度走性に関与する神経細胞の活動を計測する。 温度走性の可塑性を指標としたスクリーニングをさらに進め,記憶更新に関与する遺伝子をより多く同定する。また,低温から高温への飼育温度変化だけでなく,高温から低温への温度変化も用いる予定である。
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