研究課題/領域番号 |
26870272
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
本山 宗主 名古屋大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (30705752)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 原子間力顕微鏡 / 表面電位 / 相互作用力 / 誘電体 / 静電エネルギー / 分子間力 / 固体電池 / 電位分布 |
研究実績の概要 |
本研究では,探針・試料間への交流電圧の印加を必要としない振幅変調型原子間力顕微鏡(AM-AFM)を利用した試料の表面電位測定法を開発する.また,その手法を応用し固体電池内の電位分布をその場計測する. AM-AFM測定では探針を試料の直上で上下に振動させ,振幅と位相差を出力する.出力される振幅と位相差の変化は,振動中に探針先端に働く外力の平均値を表す.そのため,探針・試料間に働く相互作用力のプロファイルを求めるためには測定値を微分要素に分解する数値解析が必要となる.相互作用力のプロファイルを求めることができれば,静電引力とファンデルワールス(vdW)力を分離することができ,試料表面の電位を知ることができる. 初年度では,Auと高配向熱分解黒鉛(HOPG)の導電性基板を用い,探針・試料間の電位差を既知とした状態でプロファイル解析を行った.探針・試料間に与える電位差を変えながら測定し,得られた相互作用力プロファイルの中で電位依存性を示す領域を抽出した.これらの実験から探針・試料間の電位差を求めるための検量線が作成できた. 二年目は,既知の比誘電率を持つ試料に対し,比誘電率および表面電位の測定を行った.試料にはBaTiO3,SrTiO3,AgInTe2ナノ粒子(粒子径はそれぞれ5-20 nm,5-100 nm,50-500 nm)およびリン酸リチウムオキシナイトライドガラス(LiPON)電解質薄膜を使用した.まず,HOPG上に分散させたナノ粒子を用いAM-AFM測定を行った.次に,LiPON薄膜を用い,同じく比誘電率および表面電位測定を行った.薄膜であれば報告値に近い比誘電率と期待する表面電位が得られることがわかったが,ナノ粒子の測定では探針・試料間に不均一な電場が発生し測定が困難であることがわかった.本研究で提案する測定手法は,表面が平滑な薄膜試料の測定に有効であることを確認した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
二年目は,比誘電率が既知の試料(ナノ粒子,薄膜)の比誘電率および表面電位の測定を行った. (1)【単一ナノ粒子測定】測定試料には粒径がそれぞれ5-20 nm,5-100 nm,50-500 nmのAgInTe2,SrTiO3,BaTiO3のナノ粒子を用いた.これらのナノ粒子をオクタンなどの有機溶媒に分散させ,スピンキャスト法を用いてHOPG上に分散させた.その後,個々のナノ粒子に対しAM-AFMを用いて比誘電率および表面電位を測定した.探針・ナノ粒子間に働く相互作用力プロファイルを数値解析し,初年度に作成した検量線をもとにナノ粒子の比誘電率および表面電位を求めた.測定から得られた表面電位は期待する電位に比べ高すぎる値を示した.比誘電率は報告値におおむね近い値を示したが,粒径依存性が予想より大きく現れる結果となった.探針と粒子の間に不均一な電場が形成されるため,予想した値と測定値が一致しなかったと推察される. (2)【薄膜測定】Liイオン伝導性の酸化物ガラスであるLiPONをPt基板上に成膜し,(1)と同様に比誘電率および表面電位の測定を行った.LiPONの厚みは30 nmに制御した.測定の結果,LiPONの比誘電率は17を示し,報告値である16-20に近い値を示した.また測定した表面電位も期待する値を示した.ナノ粒子の場合と異なり,探針・試料間に均一な電場が形成されるため,理論通りの測定が行えたと考えられる. これまでの結果から,本手法は平滑な試料表面の電位分布測定に適していることがわかった.平滑な断面を作ることができれば,固体電池の電解質内の電位分布を測定することが可能であると考えられる.しかし固体電池を用いたその場計測の前に,別の材料で薄膜の測定を行い,さらに測定法の信頼性を検証する.固体電池の測定に間に合わせるためにも,残り一年間は効率的に研究を遂行する必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今年度の目標は固体電池断面の電位分布をその場計測することである. (1)【Al2O3薄膜の比誘電率および表面電位測定】昨年度は30 nmの厚みのLiPON電解質薄膜でのみ比誘電率と表面電位を測定した.そのため,本年度はまずLiPONの厚みを変え,測定手法の信頼性を確認する.また,Al2O3薄膜の系でも厚みを変えて同様の実験を行い,測定手法の信頼性をさらに確認する.Al2O3薄膜はパルスレーザー堆積法を用いて成膜する. (2)【全固体電池断面試料の作製】次に断面試料のその場計測に移る.電解質には,Li7La3Zr2O12(LLZ)もしくはLiPON被覆したLi1+x+yAlxTi2-xSiyP3-yO12(LATP)を用いる.これらの固体電解質は厚みがそれぞれ0.50 mmと0.15 mmの板状試料(約10 mm四方)であるため,正極と負極をそれぞれ片面に成膜後,機械的に割ることで断面を露出させる.割った試料の両面に電極が成膜されているため,側面から集電を取り電圧が印加できる状態にして試料台上に固定する.これらの作業が再現性よく行えるような工程を確立する. (3)【電位分布測定と測定結果の解析,解釈】(2)で作製した断面試料を用い,AM-AFMで表面電位を測定する.まず,電池試料に電圧を印加しない状態で固体電解質表面と探針の間に働くvdW力のプロファイル解析を行う.その後,正極・負極間に電圧を印加しながら電解質領域内の電位分布を測定する.次に,正極(負極)と固体電解質の界面近傍に分布する電位変化を調査する.AFM探針を正極または負極と同じ電位に保つことで,探針と測定点には常に正極(負極)と測定点との電位差が印加された状態でAM-AFM測定を行うことができる.本手法では,ケルビンプローブ・フォース顕微鏡のように電解質を通じて探針との間に交流電圧を印加する必要はない.
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次年度使用額が生じた理由 |
初年度は前倒し請求を二度行い,ポテンショスタットに付属させる微小電流ユニットの購入とAFMのレーザーユニット修理のためにあてた.そのため,当初の予定より多くの予算を初年度に使用した.消耗品の購入や修理等のためにできるだけ余剰した予算を次年度へ持ち越したいと判断した.
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次年度使用額の使用計画 |
主に消耗品の購入にあてる.AFM探針,石英基板,LLZおよびLATPの固体電解質基板,グローブボックスのN2ガスの購入に使用する.
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