本研究は大きく三段階に分けて進めた. まず,表面電位計測のための検量線を作製した.Auをスパッタ成膜した石英基板を測定用試料とした.探針にはAu被覆したSi製探針を使用した.原子間力顕微鏡(AFM)装置(S-image,日立ハイテクサイエンス)はAr雰囲気のグローブボックス内(露点:-70 °C以下)に設置した.共振させた探針をAu表面に接近させた.このときの振動振幅と位相の変化を測定し,それらをもとに探針先端に働く外力のプロファイルを計算機シミュレーションによって求めた.探針・Au間に外部から所定の電位差(ΔV)を与え,同様の測定を繰り返した.その結果,ΔVが大きくなるにつれ,探針に働く引力は試料表面近傍で増加した.静電引力を距離について積分し,静電エネルギー(U)のプロファイルを求めた.理論上,Uは距離の逆数に対し線形に変化し,その直線の傾きはΔVの二乗に比例する.測定結果は上記の理論に一致し,試料の表面電位を測定するための検量線を作製できた.この検量線は同じガス雰囲気中で同一の探針を使用する限り変わらない. 次に,本手法を用い,誘電率が既知の試料の誘電率を測定することで測定法の信頼性を確認した. 最後に,櫛形電極上にアルミナ薄膜を成膜し,電極間の電位分布を測定した.その結果,電極間で概ね直線的に変化する電位分布を得た.そこで,リン酸リチウムオキシナイトライドガラス電解質(LiPON)薄膜を櫛形電極上に成膜し,同様に電位部分布を測定した.アルミナの場合とは異なり,LiPONは電極近傍で急峻な電位変化を示した.空間電荷層の存在によって電極近傍で電位が急激に変化したためと考えられる. 固体電池の正負極間の電位分布をその場測定するという当初の目的を完遂することはできなかったが,外部から交流電圧を印加することなくイオン伝導体表面の電位分布を測定するための手法について原理実証できた.
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