研究課題/領域番号 |
26870282
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
林 義剛 滋賀医科大学, 医学部, 特任助教 (10631567)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | カニクイザル / オリゴデンドロサイト / 大うつ病 / インターフェロンα / モデル動物 |
研究実績の概要 |
大うつ病は抑うつ症状や興味・喜びの減退などの再発・寛解を繰り返す疾患であり、その病態解明を目指した研究が多く行われてきている。申請者は、大うつ病を含む気分障害の患者死後脳を解析し、前頭極灰白質においてオリゴデンドロサイト系譜細胞の減少を認めた。この結果は、大うつ病の病態とオリゴデンドロサイト系譜細胞が関係している可能性を示唆する。本研究では、ヒト死後脳研究で得られた知見から、動物レベルでの解析を行う。動物モデルの解析では、げっ歯類のストレスモデルが、頻用されているが、ヒトの病態をどの程度反映しているかについては議論がある。また、前頭葉の発達が弱いげっ歯類では不十分で、非ヒト霊長類のうつ病モデルの作製が必要不可欠である。そのため本研究では、カニクイザルを用いた大うつ病モデル動物を作製し、大うつ病の病態メカニズムを明らかにすることを目的とする。大うつ病モデルの作製には、C型肝炎などの治療薬として用いられており、投与した患者の約20-50%がうつ症状を呈することが報告されている、インターフェロンαを用いる。昨年度は、倫理的な側面において十分な配慮が必要な、カニクイザル1頭に対して、ヒトの投与量に順じた濃度のインターフェロンαを13週間慢性投与し、行動変化が生じることを見出した。 本年度は、更に1頭のカニクイザルに対してインターフェロンαの慢性投与を行い。現在3頭目の慢性投与を行っている最中である。合計3頭の慢性投与が終了した時点で、脳の解析を行う予定である。また、動物センターより野生型カニクイザル脳の提供を受け、その死後脳におけるオリゴデンドロサイト前駆細胞の分裂数を計測したところ、前頭前野において他部位より分裂数が多いことを見出した。霊長類脳におけるオリゴデンドロサイトの分裂は、これまで報告がなく、また脳部位による違いの発見は、今後の研究の発展に繋がる重要な成果だと考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カニクイザルを用いた研究は、国内外でも非常に稀であり、その研究プランの検討が重要である。昨年度。倫理的な側面においても十分な検討を行い、カニクイザルへのインターフェロンαと対照として生理食塩水の慢性投与を行うことが出来た。今年度も同様にそれぞれ2頭目の投薬を行い、さらに3頭目の投薬を実行中である。3頭の慢性投与が終了した時点で、脳の解析を行う。 また、野生型のカニクイザル脳において、オリゴデンドロサイト前駆細胞の分裂数が、脳部位によって異なるということを見出した。当初の予定にはない実験であったが、この発見は、本研究を遂行するに当たり、非常に重要であると考える。
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今後の研究の推進方策 |
カニクイザルはマウスなどに比べ個体サイズが大きく力も強く、その扱いに十分注意が必要である。また非常に高価なため年間に多くの個体の投薬を行うことが困難である。平成28年度初旬にインターフェロンα慢性投与群と生理食塩水投与群をそれぞれ3頭ずつ準備できる予定である。投与中のカニクイザルは、連続ビデオ撮影を行っており、行動解析を行っていく予定である。また、慢性投与後の、死後脳からフローサイトメーターを用いて、神経細胞、オリゴデンドロサイト系譜細胞の数を定量する。さらにそれらの細胞を分取し、DNAを抽出する。抽出したDNAは、バイサルファイト処理を行い、DNAのメチル化解析を行う。候補遺伝子としては、ヒト精神疾患で異常が報告されている、セロトニンレセプターやトランスポーター、神経栄養因子であるBDNFやGDNF、オリゴデンドロサイト関連遺伝子であるSOX10などを候補としている。
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