研究実績の概要 |
生物の細胞内では、必要に応じて様々な情報伝達物質が産出され、その濃度を変化させる事で下流に情報を伝達している。情報伝達物質の中でも、イノシトールポリリン酸類 (InsPn) は細胞内Ca2+を制御する分子群として重要だが、最も代表的なIns(1,4,5)P3やその代謝産物であるIns(1,3,4,5)P4以外の各誘導体の、生きた細胞内における検出手段は非常に限られている。本研究では、細胞内の様々なInsPnのうち、Ins(1,4,5)P3のすぐ下流で産出されるIns(1,3,4)P3とIns(1,3,4,6)P4に対して、その濃度挙動の経時変化を、生きた単一細胞内で、蛍光法を用いて高感度で検出できる技術を開発し、これらを用いて細胞内Ca2+制御の機構を明らかにすることを目的とする。 標的物質であるIns(1,3,4)P3・Ins(1,3,4,6)P4と、他のInsPnの間には非常に僅かな差しかなく、各々に特異的な天然受容体は報告されていない。この差を見分けて選択的に検出する人工受容体の作製には、なるべくたくさんの受容体候補の中から、目的に合う分子を選び出す手法が適切であると考え、平成26年度はまず、7残基のアミノ酸ライブラリーの中から、Ins(1,3,4)P3に特異的に結合する配列をphage display法で選択することを試みた。5ラウンドの結合・洗浄による選択の後、Ins(1,3,4)P3に結合する分子種のプールが得られた。各配列の、標的に対する親和性・選択性については今後評価を行う。こうして得られた最適配列をIns(1,4,5)P3に特異的に結合する天然のタンパク質、PLCδ1 PH domainの基質結合部位周辺に導入することで、Ins(1,3,4)P3に特異的な人工受容体を作製する。同様の手法をIns(1,3,4,6)P4にも試みる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
平成26年度はまず、本研究で標的物質としているIns(1,3,4)P3に対する人工受容体構築のために、Ins(1,3,4)P3に高選択的に結合する7残基のアミノ酸配列をT7 phage display系でランダムに提示させたライブラリーの中から選び出すことを試みた。7残基のアミノ酸を用いることで、理論上ライブラリーの多様性は20の7乗通りが確保できる。ライブラリーの準備は順調に進んだが、次の段階であるライブラリーからの目的アミノ酸配列の選択系の確立において、結合配列が既知のポジティブコントロールとして用いたビオチンに対する結合アミノ酸配列の選択について予想される結果が得られなかったため、詳細な条件の検討を行う必要が生じた。その後Ins(1,3,4)P3に対して結合する配列の選択を行い、目的分子種のプールを得た。次に、他のInsPnに結合する分子種を排する逆選択を行い、標的物質にのみ高選択的に結合する配列を選び出す予定である。 当初の予定ではもう一つの標的物質であるIns(1,3,4,6)P4に対して結合する分子種も並行して選択する予定であったが、最適な選択圧条件を再検討するために別々に行うこととした。 平成27年度においては、他の標的物質であるIns(1,3,4,6)P4に対する結合配列を選択する操作(選択系が確立済み)と、得られた配列からの人工受容体作製・蛍光発色団融合の操作を同時並行で行うことができる。その後、作製したセンサーの細胞内での評価を行い、立案段階当初の研究計画を研究実施年度中に達成できる見込みである。
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