細胞は、外部からの刺激に応じて様々なシグナル伝達系を走らせ、その下流の細胞応答を制御している。中でも、イノシトールポリリン酸類(InsPn)は、細胞内Ca2+濃度を制御しており、転写・翻訳等を司っている。InsP3/Ca2+シグナルによる細胞内情報伝達は、広範囲な生物種において様々な生命現象に関与していることが報告されている。InsP3は細胞内で更に代謝されて、イノシトール四リン酸(InsP4)、イノシトール五リン酸(InsP5)などのInsPnが産出される。個々のInsPnは、各々が独立した機能・役割を持っていると考えられている。しかし、現況では生きた単一細胞内でのInsPn動態をリアルタイムにモニターするための手法が限られているため、細胞内での役割や産出・代謝経路は完全には明らかにされていない。細胞内InsPnを検出するためには、多数の細胞を集めて、そこから抽出して検出するしか定量的な解析方法が存在しないが、この手法は細胞の破壊を伴う上に時間的に連続した情報は得られない。また、検出される情報は多数の細胞の平均であり、必ずしも個々の細胞応答を反映していない。 そこで本研究では、InsPnの濃度挙動の経時変化を、単一細胞内で、細胞を破壊する事なく、高感度に計測できる技術を開発を行い、このセンサーを用いて、InsP4の生理学的な意義の探索を試みた。まず、InsP3をInsP4に変換する酵素(IP3K)の新規阻害剤を見出し、そのInsP4産出阻害能を、作製したInsP4センサーを用いて評価した。次に、この阻害剤を処置した細胞に、細胞外からのCa2+流入を促す刺激を与えたところ、阻害剤処置がない場合と比較してCa2+流入が抑制されている傾向が観測できた。以上の結果から、InsP4が細胞内へのCa2+流入を制御する役割を担っていることが明らかとなった。
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