研究課題/領域番号 |
26870292
|
研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
笠井 倫志 京都大学, 再生医科学研究所, 助教 (20447949)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | Gタンパク質共役型受容体 / ヘテロダイマー / ドーパミン受容体 / 3量体Gタンパク質 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のヘテロダイマーがシグナル生成の基本ユニットであるという仮説を検証する事である。そのためにまず、蛍光1分子観察法によってヘテロダイマーを可視化し、動的性質の解明に取り組んだ。 生細胞中でGPCRを蛍光ラベルする方法を引き続き検討することで、前年度までに受容体ラベルに成功していたドーパミン受容体D2(D2R)に加えて、ドーパミン受容体D1(D1R)も蛍光色素で1:1にラベルする事に成功した。 次に、D1RとD2Rを二色同時に蛍光1分子ビデオ観察し、生細胞膜上では、両者が1:1で結合するヘテロ分子複合体を一過的に形成している事を世界で初めて明らかにした。このD1R・D2Rヘテロダイマーの寿命は、50ミリ秒以下と極めて動的であったが、これは、D1RやD2Rや、また、他のクラスAのGPCRのホモダイマー寿命と同じ時間オーダーである事が分かった。 さらに、D1RとD2Rのヘテロダイマー形成がドーパミン刺激依存的に変化するかどうかを、同じく蛍光1分子観察法を用いて調べた。その結果、ヘテロダイマー寿命は、ドーパミン刺激後に約2倍に伸びる事が分かった。これは、ヘテロダイマー形成がシグナル伝達と何らかの関わりを持つ事を示唆している。また、他のクラスAのGPCRが形成するホモダイマーでも、アゴニスト刺激後にダイマー寿命が延びる現象が捉えられており、ヘテロダイマーでも似た傾向を示すことが分かった事から、刺激依存的なダイマーの動的性質の変化は、クラスAのGPCRに共通して保存された特徴の可能性がある。 また、二色同時蛍光1分子観察した画像データから、ヘテロダイマー寿命を解析する方法の検討を進めた。拡散する2点が偶然共局在する様子をシミュレーションすることで、偶然の重なり合いの頻度と寿命を評価し、実験データからこれらを除く方法を確立した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GPCRのラベル法を検討し、ドーパミン受容体D1(D1R)および、ドーパミン受容体D2(D2R)を、それぞれ異なる色素を用いて正確に1:1でラベルする事に成功した。これにより、D1RとD2Rを生細胞中で二色同時に蛍光1分子観察することが可能になった。実験の結果、D1RとD2Rが生細胞膜上でヘテロダイマーを形成している様子を世界で初めて捉える事が出来た。このヘテロダイマー形成は動的で、寿命50ミリ秒以下である事もわかった。この時、D1R、およびD2Rそれぞれのホモダイマー形成も同じ生細胞膜中の他の場所で起きており、ホモダイマーとヘテロダイマーが共存しているらしいことも分かった。 また、ドーパミン刺激後には、D1R・D2Rヘテロダイマーの寿命は刺激前に比べて約2倍に伸びる事もわかった。なお、ドーパミン刺激直後から、D1RもD2Rも、それぞれ拡散係数が刺激前と比べて35%ほど減少する事が分かったが、その理由やシグナル伝達とのかかわりは不明である。以上の実験から、D1R・D2Rヘテロダイマーの動的性質と、その刺激依存的な変化がおおむね明らかになってきた。 また、二色同時蛍光1分子観察した画像データから、ヘテロダイマーの検出および寿命を解析する方法の検討を進めた。拡散する2点が偶然共局在する様子をシミュレーションすることで、偶然の重なり合いの頻度と寿命を統計的に除く方法を確立する事が出来たので、今後の解析に用いる。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は、D1R・D2Rヘテロダイマーにリクルートしてくる三量体Gタンパク質を、三色同時蛍光1分子観察を行って調べ、ヘテロダイマーがシグナルユニットである事を直接証明する。これまでの結果から、ヘテロダイマー形成は極めて動的である事が分かってきた。特に刺激前では、寿命が50ミリ秒以下と極めて短い。ヘテロダイマーにリクルートしてくる下流分子を1分子で可視化するためには、ビデオレートでは時間分解能が足りず、少なくとも250Hz(実時間の8倍)程度の高速観察を行って調べる必要がある。 また、細胞膜上では、D1RやD2Rのホモダイマーと、ヘテロダイマーが共存していることも分かってきた。ヘテロダイマーに特異的にリクルートしてくる三量体Gタンパク質などの下流シグナル分子を調べるためには、ダイマー形成そのものを制御し、シグナル経路を切り分けて考えられる方が都合がよい。そこで、ヘテロダイマー形成に必要な部位を同定し、ヘテロダイマー形成不全のD1R、D2Rを作製する。D1、D2にアミノ酸変異を導入した変異体を複数作製し、ヘテロダイマー形成が阻害される様子を二色同時蛍光1分子観察により網羅的に調べ、ヘテロダイマー形成不全のD1RとD2Rを見つけ出す。これらを用いて、ヘテロダイマー特異的シグナルが生じない細胞系を作製し、ヘテロダイマー特異的シグナルが細胞にどのように利用されているかを明らかにする。 さらに、他のGPCRと、D1RやD2Rとのヘテロダイマー形成を調べ、ペアを替えたときのヘテロダイマーのシグナル伝達効率が、D1R・D2Rヘテロダイマーと異なるかどうか調べる。また、D1RとD2Rで同定する予定のヘテロダイマー形成部位が、他のGPCRとのヘテロダイマー形成でも共通して用いられるのかどうかも併せて調べる。これには、例えば、D2Rと、ヒスタミンH3受容体とのペアを用いる。
|