研究課題/領域番号 |
26870293
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
近藤 史 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教 (20512239)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | アフリカ / 植林 / 林業 / 格差 / 平準化 / 経済発展 |
研究実績の概要 |
タンザニア南部の農耕民ベナがおこなう焼畑を基盤とした産業植林は、製材用のパツラマツを植えて、その人工林を10年サイクルで利用・再生するものである。平成27年度は、前年度および今年度の現地調査で収集したデータ・資料の分析と、空中写真および衛星画像を用いた景観の通時的変化の分析をとおして、以下の点を明らかにした。 1)ベナの人びとは、主に村有の草地(放牧地)を植林地へ転換して林業を発展させてきた。村有地の割譲にかんする現在の仕組みは、一部の世帯が植林地を拡大し、それを元手に林業や関連事業で儲けてさらに植林地を拡大する、というふうに土地保有の格差を雪だるま式に広げる可能性を内包しており、数百エーカーの植林地を保有する大規模林家が出現していた。 2)しかし、土地保有の格差にかんする大きな不満はみられなかった。大規模林家は、その地域に外部の技術を導入し改良を加えて林業を盛り上げてきた功労者であり、周囲の人たちと林業で雇用関係にあるだけでなく、林業に参入しようとする若者を手厚く支援したり、森林火災の被害を抑制する消火ネットワークの結節点となったり、また水道敷設などの公共事業を積極的に牽引したりするなど、周囲の住民にさまざまな便宜をはかっていた。 3)掛谷(1987)は、アフリカ農耕社会では、不平等化をもたらすような行為(生産資源や富の集積)を病や不幸と連動させることによって、負のフィードバックをかけながらコントロールしてきた、と述べている。大規模林家が見せる社会貢献には、恨みや妬みに由来する火災(放火)を回避しようという意識が働いているのかもしれない。市場経済化が進むベナ社会をみるかぎりでは、地域社会から信頼されている大規模林家がもつ余剰、すなわち平準化に根ざした格差は、むしろ農村の発展に貢献し、地域の経済発展を牽引して生活水準の底上げにつながると考えられるようになっている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
タンザニアにおいて現地調査をおこない十分なデータ・資料を収集できた。前年度の調査結果とあわせて研究成果を学会発表や図書収録論文(「半乾燥地域の林業を支える火との付きあい方―タンザニア南部、ベナの農村の事例から」重田眞義・伊谷樹一 編『争わないための生業実践―生態資源と人びとの関わり』)にまとめることができた。
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今後の研究の推進方策 |
当初計画どおり、これまでのデータを整理し、東南アジアなど他地域の事例と比較しながら、アフリカにおける焼畑を基盤とした産業植林の持続可能なあり方について、課題と展望を考察する。必要に応じて補足調査を実施する。 一連の研究成果をもとに、タンザニアでワークショップを実施し東アフリカの農村開発研究を専門とするソコイネ農業大学の研究者や現地の行政官、農業普及員たちと意見交換することを目標とする。 ただし、アフリカでは最近、テロの発生など治安の乱れや、エボラ出血熱など危険な伝染病の流行も起こっていることから、現地調査・ワークショップに際しては事前に情報収集を入念におこない、安全な活動が可能な時期を選定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2ヵ月間のタンザニア現地調査を予定していたが、治安の乱れを回避して安全に調査するため、タンザニア総選挙(2015年10月25日)が終わるまで渡航を控えた。その後、所属機関を変わることになり、諸手続きのため渡航期間を1ヶ月に短縮せざるを得なかったことで、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
現地での補足調査およびワークショップの実施と、日本国内での文献資料の収集、データおよび資料の分析に使用する。平成27年度に調査期間を短縮したことから、平成28年度は補足調査をしっかり実施したい。
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備考 |
研究の一部を一般向けのエッセイにまとめて、NPO法人アフリック・アフリカのウェブサイトに掲載した。
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