本研究の目的は、様々な物理系および相で現れるトポロジカル欠陥について、普遍的に現れる新規なダイナミクスを探求し、統一的に理解することである。29年度には28年度に得られた、非可換量子渦で構成される新奇な非可換量子乱流が引き起こすヘリシティカスケードが何故起こるのかを探るべく、より詳細なシミュレーションを行った。 具体的には量子乱流を駆動するための外力スケールを変え、注入されたエネルギーやヘリシティなどの物理量が波数空間上でどのようにカスケードするのかを調べた。その結果分かったことは、28年度に得られたヘリシティカスケードは外力の空間変化が比較的大きなときに起こり、一方で、外力の空間変化が小さなときにはエネルギーが波数空間上をヘリシティとは逆向き、つまり波数の小さな方向へカスケードすることが分かった。この結果は非可換量子乱流において、エネルギーとヘリシティが逆向きに流れることにより、それぞれ独立な乱流の統計則を生み出していることを強く示唆している。また、このようなエネルギーとヘリシティの2重カスケードは、例えば電磁流体乱流のようなカイラリティが陽に破れた系における乱流において存在しうることが理論的に示唆されているが、今回の系はカイラリティは破れておらず、全く新しい乱流系であるといえよう。 また、その他にも、2つの異なる超流動秩序が存在し、かつその秩序がジョセフソン結合しているような系を考え、空間2次元の場合におけるKostelitz-Thouless (KT) 転移の性質を調べた。この系はジョセフソン結合により異なる成分の渦が分子状態を作る。その結果、KT転移は従来の渦対ではなく、渦分子対によって引き起こされ、渦対は転移ではなくクロスオーバーを引き起こすことが分かった。この結果はマルチギャップ超伝導のKT転移の性質を理解するのに役立つであろう。
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