市場経済化が進むカザフスタンでは、放牧地が豊富に存在しているにも関わらず、一部の農村部では局所的に土地劣化が指摘されるというジレンマに直面している。そこで本研究では、農家データを用いることにより放牧地の利用実態を空間的に把握するとともに、部分的に進む土地劣化の要因を社会科学的な観点から明らかにすることを目的とした。 まずカザフスタンにおける農業政策に関連する文献及び統計データ、さらには土地所有制度に関連する法律および精度に関する文書をサーベイし、同国の土地利用、特に放牧地の利用実態を把握するための基礎的知見を整理した。カザフスタンではソ連崩壊後、家畜飼養頭数が減少し、家畜一頭当たりの放牧地面積が増加する一方で、ソ連崩壊後に実施された民営化政策・土地改革の影響で広範な放牧活動が制約されるとともに、効率的な土地利用が阻害されている可能性が示唆される。 現地調査では、同国において経済発展により都市農村格差が拡大し、農村部の畜産農家は自給的生活を迫られ、結果的に高コストな移動放牧が実施できない状況にあることが確認された。また、土地利用に関する空間的データに関しては、分析に耐えうる十分なリモートセンシングのデータが得られなかったため、農家データに基づく土地利用度及び荒廃度のデータを用いている。これらのデータ分析により、村周辺の共有地において放牧圧が高まり土地劣化が進むとともに、農家の共有地への放牧行動に資産状況が影響を与えている実態が明らかとなった。さらに、ソ連崩崩壊後、農地の利用権を放牧民に解放したものの、農家によるその空間的位置や利用権範囲が把握があいまいかつ不十分なため、効率的な土地利用が進んでいない実態が明らかとなった。今後は、これら実証分析の精度を高めるための工夫を行う予定である。
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