研究課題/領域番号 |
26870300
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
森山 貴広 京都大学, 化学研究所, 助教 (50643326)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | スピントロニクス / 反強磁性体 / 高周波 |
研究実績の概要 |
本研究では、スピン流による反強磁性体の磁化方向の制御、磁化ダイナミクスの励起、さらには磁化ダイナミクスを利用したスピン起電力の発生および測定を目指す。反強磁性体とは、原子スケールで局在スピン(磁化)を有するが、隣り合う局在スピンが反対方向を向いて整列しているため、全体として自発磁化を持たない物質である。最近の理論的な研究では、強磁性体と同様に、スピン流と反強磁性体の磁化との相互作用(スピントルク効果)により磁化の制御が可能であることが示されており実験的評価が期待されている。この研究により、スピン流と反強磁性体磁化の相互作用の物理の理解を深め、スピントロニクスにおいて反強磁性体が新たな機能材料となりうることを実証する。 本年度では、スピンホール効果を用いて効率的に反強磁性体にスピン注入できるデバイス構造を作製した。さらに、スピントルク強磁性共鳴法を用いて反強磁性体にかかるスピントルクを定量的に求めた。さらに、様々な反強磁性材料(FeMn、IrMn、NiO、Co/Cu人工反強磁性体)についてスピントルク共鳴法にてスピントルクの定量的評価を行った。実験結果は、スピンホール効果によって生じたスピン流の角運動量が反強磁性体の磁化に転送されていることを示唆するものであり、スピントルク効果により反強磁性体の磁化を制御できる可能性を示している。 当初、27年度に計画していたスピン流との相互作用による磁化の振る舞いの観測も進展している。スプリング8放射光施設での偏光X線を用いてエピタキシャルNiO薄膜の磁区観察を行い、反強磁性磁化を実観察(可視化)することが可能であることを確認した。今後、スピントルクによって磁区がどのように変化するかを観察する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
スピントルク強磁性共鳴法を用いた反強磁性体スピントルクの定量的評価を確立し、様々な反強磁性体材料に適用できるようになった。 実験結果は、スピンホール効果によって生じたスピン流の角運動量が反強磁性体の磁化に転送されていることを示唆するものであり、今後の研究の広がりを大いに担保するものである。 当初27年度に計画していた、偏光X線を用いた反強磁性体磁区観察実験が思いのほか進展し、反強磁性磁化を実観察(可視化)することが可能であることを確認した。 今後スピントルクにより反強磁性体磁区がどのように変化するかを実観察し、更なる反強磁性体スピントルクの理解につなげられると期待できる。 また、理論家との緊密な議論のもと、実験結果の理解や、更なる反強磁性体スピントロニクスの理学構築を進められている。
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今後の研究の推進方策 |
研究は計画以上に進展しており、当初計画を前倒しで進める。 今後はスピントルク強磁性共鳴法を用いて様々な反強磁性材料について測定し、反強磁性体スピントルクの理解を深める。 さらに、当初の計画を前倒し、偏光X線を用いたスピン流との相互作用による磁化の振る舞いの直接観測や反強磁性体におけるスピン起電力の検出などを目指して研究を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験の進捗状況から、消耗品費で購入予定であった単結晶MgO基板を次年度に延期したため。MgO基板は劣化するため、通常実験直前に購入するのが望ましい。次年度の必要な時期に改めて購入する。
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次年度使用額の使用計画 |
27年度予算と合算してその他(消耗品)費として単結晶MgO基板の購入に使用する。
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