本研究では、スピン流による反強磁性体の磁化方向の制御、磁化ダイナミクスの励起、さらには磁化ダイナミクスを利用したスピン起電力の発生および測定を目指す。反強磁性体とは、原子スケールで局在スピン(磁化)を有するが、隣り合う局在スピンが反対方向を向いて整列しているため、全体として自発磁化を持たな物質である。最近の理論的な研究では、強磁性体と同様に、スピン流と反強磁性体磁化との相互作用(スピントルク効果)により磁化の制御が可能であることが示されており、事件的評価が期待されている。本研究により、スピン流と反強磁性磁化の相互作用の物理の理解を深め、スピントロニクスにおいて反強磁性体が新たな機能材料となりうることを示す。 平成26年度に、スピンホール効果を用いた反強磁性体へのスピン注入方法、さらにスピントルク強磁性共鳴法を用いて反強磁性体に作用するスピントルク効果の定量評価方法を確立している。平成27年度は、これらの測定方法をさらに応用し、スピントルク効果により励起された反強磁性体磁化ダイナミクスが反強磁性体中にスピン流を搬送することを見出した。また、反強磁性体(FeRh合金)において反強磁性体の磁化方向に対応して異方性磁気抵抗効果が発現することを実験的に見出した。 本年度は、当初の研究計画からさらに発展させ、反強磁性体メモリデバイスの実証を行った。反強磁性体ビットのスピントルク効果による書き込み・磁気抵抗による読み出し動作原理の実証した。 これらの成果により、反強磁性体におけるスピン相互作用の理解が深まり、さらには反強磁性体がスピントロニクスデバイスにおいて新たな機能材料となることを示した。
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