研究課題
テトランドリン(Tet)は、オートファジー・リソソーム経路により脂肪滴が分解される現象「リポファジー」を制御すると考えられる小分子化合物である。本研究では、Tetをバイオプローブとして、その標的分子を解明するとともに、リポファジーによる脂肪滴の分解過程を明らかにすることを目的とした。平成27年度は、前年度で作成した化合物固定化ビーズを用いて、標的候補タンパク質のプルダウンの再検証、ならびに得られたタンパク質が真に活性に寄与するか検討を行った。種々の細胞種より細胞抽出液を調整し固定化ビーズと反応させ結合するタンパク質をアフィニティ精製した。Tetは、肝細胞や繊維芽細胞など、複数の細胞種でオートファジーを阻害することから、固定化ビーズでのみ検出されるバンドのうち、複数の細胞種で共通するタンパク質を絞り込み、質量分析によりタンパク質の同定を試みた。このうち、オートファジーの初期に関わるタンパク質が検出されたが、オートファジーの後期を阻害すると考えられるTetの生物活性との整合性が見られなかった。その他種々条件を検討したが、真に活性に寄与すると考えられるタンパク質が得られなかったため、固定化ビーズ法による同定を断念し個別の因子群に着目した生化学的解析により標的同定を試みることにした。まず本化合物がリソソームの機能に影響を与えるか検討を行った。リソソームのpH調整に重要な役割を果たすV-type ATPaseの阻害活性を検討したが、全く影響が見られなかった。また、化合物を処理した細胞内における酸性小胞を観察したところ、ポジティブコントロールであるbafilomycin A1ではアクリジンオレンジで染色される蛍光が完全に消失した一方でテトランドリン処理では全く影響が見られなかった。よって本化合物はリソソームの機能には影響を与えることなくオートファジーを阻害していることが強く示唆された。
3: やや遅れている
平成27年度途中より、「小分子バイオプローブを用いた細胞内タンパク質分解制御システムの構築」に関する共同研究のために、米国に滞在しており、予定していたテトランドリン標的候補分子の生化学的解析を完了することが出来なかったため、当初の予定よりやや遅れていると判断した。
標的候補分子の生化学的解析として、オートファゴソームとリソソームの融合に関わるタンパク質に着目した解析を行う。具体的には、Stx17とそのパートナータンパク質であるSNAP29、VAMP8との結合がテトランドリン処理により変化するか、免疫沈降法やin vitroプルダウンアッセイにより検証する。これらの解析を通じて標的分子が同定できた場合、脂肪滴分解過程における標的分子の役割を、脂肪滴表面タンパク質であるペリリピンに着目して解析する。さらに、肝硬変の成因である「肝線維化」に着目し、リポファジーが関与すると考えられる疾患における創薬への応用可能性を検証する。
平成27年度途中より、「小分子バイオプローブを用いた細胞内タンパク質分解制御システムの構築」に関する共同研究のため米国に滞在しており、テトランドリン標的候補分子の生化学的解析に関する実験に遅れが生じたため、予定していた試薬や機器などの購入を行わなかったことにより次年度使用額が生じた。
テトランドリン標的候補分子の生化学的解析に関する実験に必要な物品や、研究発表にかかる経費等に使用する。
すべて 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち国際共著 1件、 査読あり 2件) 学会発表 (2件)
ACS Chemical Biology
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Biochemical Journal
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