研究課題
テトランドリン(Tet)は、オートファジー・リソソーム経路により脂肪滴が分解される現象「リポファジー」を制御する小分子化合物である。本研究では、Tetをバイオプローブとして、その標的分子を解明するとともに、リポファジーによる脂肪滴の分解過程、並びにその生理機能を明らかにすることを目的とし、研究を行った。化合物固定化ビーズを用いたアフィニティ精製法により標的分子の同定を試み、複数の結合タンパク質を得た。そのうち、オートファジーの初期に関わるタンパク質が検出されたものの、オートファジーの後期のステップを阻害すると考えられるテトランドリンの生物活性との整合性が見られなかったため、個別の因子群に着目した生化学的な解析により作用点の同定を試みることとした。まず、本化合物がリソソームの機能に影響を与えるか検討を行った。リソソームのpH調整に重要な役割を果たすV-type ATPaseの阻害活性を検討したが、全く影響が見られなかった。また、化合物を処理した細胞内における酸性小胞を観察したところ、ポジティブコントロールであるバフィロマイシンA1ではアクリジンオレンジで染色される蛍光が完全に消失した一方でテトランドリン処理では全く影響が見られなかった。以上の結果から本化合物はリソソームの機能には影響を与えることなく、オートファジー経路を阻害していることが強く示唆された。また、脂肪滴分解機構に関わる解析として、脂肪滴表面タンパク質の局在を観察したところ、ペリリピンのみが特異的に局在することが明らかになった。さらに、オートファジーが関わると考えられる肝星細胞の活性化に与える影響を評価したところ、化合物処理により、静止期に特徴的な脂肪滴の蓄積が見られ、さらにコラーゲンの産生量が低下するという結果が得られた。
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