研究課題/領域番号 |
26870313
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
大場 洋次郎 京都大学, 原子炉実験所, 助教 (60566793)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 小角散乱 / ブラッグエッジ / 相界面析出 / 鉄鋼 / 中性子 |
研究実績の概要 |
平成27年度は、まず、大型加速器施設J-PARCに設置された共同利用のパルス中性子小角・中角散乱装置TAIKANで得られた中性子小角散(SANS)-ブラッグエッジ同時測定の結果について解析を進めた。この結果を学術雑誌に論文として発表した。また、鉄鋼材料は強磁性体であり、磁気散乱を生じることから、ブラッグエッジに磁気回折が寄与すること(磁気ブラッグエッジ)を明らかにし、SANS測定における磁気ブラッグエッジの表式を導くことができた。これは、磁気構造解析にブラッグエッジ測定を利用できることを意味しており、SANS-ブラッグエッジ同時測定が磁性材料の解析にも有効である可能性を示す結果である。この結果は、現在学術雑誌に投稿中である。また、小角散乱強度の異なる試料の透過率スペクトルを比較した結果、透過率スペクトルにSANSによる減衰も寄与し、これを解析することでSANSの情報が得られることを見出した。 一方、その場SANS-ブラッグエッジ測定は、TAIKANの装置担当者との打ち合わせを進めたが、試料加熱用のレーザー加熱炉が完成せず、測定を実施することができなかった。そこで、代わりにX線小角散乱(SAXS)とX線回折のその場同時測定を計画し、準備を進めた。昨年度に準備した実験系に改良を加え、純アルゴン雰囲気でなくアルゴンと水素の混合ガス雰囲気に変更してSPring-8でその場SAXS測定を行った結果、試料の酸化を抑えて実験することに成功した。平成28年度にSAXSとX線回折のその場同時測定のビームタイムを得ることができたため、実験を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成27年度までに、透過率スペクトルにおける磁気回折とSANSの影響まで含め、SANS-ブラッグエッジ同時解析法を構築することができた。しかし、その場SANS-ブラッグエッジ測定は実施できておらず、相界面析出の理論的検討は遅れている。一方、透過率スペクトルにおける磁気回折とSANSの影響は、本研究で初めて定量的な解析が可能になり、有用な情報を引き出せることが明らかになった。この結果は、中性子散乱実験技術の高度化や、新しい利用方法の創出につながるものと期待されることから、当初の計画以上に進展していると考えられる。また、放射光における実験技術の進展によりSAXSとXRDの同時測定の環境が整備されてきたことから、SANS-ブラッグエッジ同時解析を補う実験が可能になり、現在このための準備を進めている。 これらを総合して、本研究はおおむね順調に進展していると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
SANS-ブラッグエッジ同時測定については、引き続きレーザー加熱炉の作製とその場測定の計画を進める。しかし、レーザー加熱炉が確実に完成して使用可能な状況になり、J-PARCのビームタイムが得られるかどうかは不透明である。そこで、代替的手段として、SPring-8を利用してSAXSとX線回折の同時測定を行う。これは、SANS-ブラッグエッジ同時測定と同様に、SAXSで析出物の形態を評価し、同時にX線回折で母相を解析する手法である。X線では、試料が薄いことから、表面の酸化が問題となり得るが、これについては平成27年度に、アルゴンと水素の混合ガスを用いることで解決した。また、過去の同様の実験に基づくと、加熱中の変形等のために回折強度の絶対値を信頼できない可能性がある。そのため、回折ピークの線幅の変化からフェライトの結晶子サイズを見積もることを行う。その一方で、SPring-8では中性子実験よりも強いシグナルが得られることから、より高速な時分割測定が可能な見込みである。平成27年度に担当者と打ち合わせを進めてSAXSとX線回折の同時測定について課題申請を行い、平成28年度のビームタイムを得た。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成27年度までに作製する計画であったレーザー加熱炉の費用が不要になった。代わりにSAXSとX線回折の同時測定を行うことにしたことから、このための研究費が必要になった。この実験は平成28年度に行う予定であるため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額は、SAXSとX線回折の同時測定に関連する研究費として使用する計画である。また、当初の計画通り、学会発表や論文投稿等に関わる費用も計上する。
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