難治性てんかんの治療法の1つに迷走神経刺激療法 (VNS) がある.VNSは手術で胸部に植込んだデバイスにより左頸部迷走神経を電気刺激することで,てんかん発作の回数や症状を軽減する緩和的治療法であり,2年間の治療継続により半数の患者において発作回数が半減すると報告されている.しかし,その作用機序は未だ解明されていない.そこで本研究では,VNSの作用機序解明に向け,VNS施行患者の臨床データ解析を行った.解析対象データはVNS施行患者の脳波 (EEG) である.本研究では,脳活動を反映したEEGにVNSによってどのような変化が現れたのかを調べ,VNSの作用機序解明につながる知見を得ることを目的とした.
これまでにグラフ理論に基づいたコネクティビティの解析を実施した.コネクティビティの指標として,グレンジャー因果性を用い,その結果,VNS刺激中の脳波解析手法を確立することができた.本年度は確立した手法を用いて,臨床データからVNSが脳活動に与える影響について考察した.左右脳半球間での神経活動の非対称性,VNS刺激の大脳辺縁系の神経活動への影響の2点で,既存の研究成果との一致が見られたことで,本研究の解析手法の有効性を確認した. さらに,特に前頭葉てんかんにおいて,VNS刺激中に前頭葉のコネクティビティが著しく上がっている様子が確認できた.てんかん発作は主に寝起きやぼうっとしているときなど集中力の欠けた状況で起きやすいとされるが,前頭葉の活動は集中力との関係が指摘されている.このことより,前頭葉のコネクティビティ向上がてんかん発作緩和に影響していると考られる.
現在,これまでの成果を論文として公表するために,解析結果を整理するとともに,原稿の作成にあたっている.
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