本課題において、エネルギー資源問題を解決する手段の一つとして期待されているバルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池に関し、固体核磁気共鳴(NMR)法を中心とした分光学的手法により、その膜内構造と光電変換特性の相関解明を試みた。まず、様々な素子作製条件を検討して得られた作製プロセスと光電変換特性の相関に基づき、作製したDTS(FBTTh2)2:PC71BM混合膜2種類に対して、固体NMRの実験室座標系における1Hスピン-格子緩和時間測定を行った。その結果、変換効率の低い素子(1.9%)においては、ドナーとアクセプターがわずかに相分離している状態であるのに対して、変換効率の高い素子(5.2%)は数十ナノメートルオーダーで相分離状態となっていることが明らかとなった。また、紫外可視吸収スペクトル測定から、高特性素子において、混合膜中の秩序化が進行していることも明らかとなった。以上のように、有機膜内のバルクヘテロ構造と呼ばれるドナー・アクセプター混合状態の明確な変化および秩序化が有機薄膜太陽電池の高特性化に寄与していることが明らかとなった。作製プロセス―バルクヘテロ構造―光電変換特性の一連の相関解明により高変換効率発現の原理を明らかにする本研究は基礎的であると同時に、応用面においても特性向上に関する知見を与えるものとして、意義深いものである。また、固体NMR測定に必要なサンプル量を得ることができるスリットコート法による大面積塗工ならびに同法による素子作製も検討し、一定の成果が得られた。
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