昨年度までに引き続きハコネサンショウウオ(狭義)、シコクハコネサンショウウオ等の成体、幼生を用いた室内実験を継続した。また、ツクバハコネサンショウウオを対象に生活史に関する現地調査を行った。 本年度は昨年度以前および今年度新規に収集した標本を用いて、本州東北部に分布するキタオウシュウサンショウウオ、バンダイハコネサンショウウオ、ハコネ(狭義)の側所的分布境界域(交雑帯)、およびタダミハコネサンショウウオとハコネ(狭義)の同所的生息域における集団遺伝構造の解析を行った。解析に先立ち、追加の遺伝マーカー開発を行い、15遺伝子座のマイクロサテライトマーカーを新たに開発した。また、次世代シークエンサーを用いたMIG-seq法によるSNP解析のテストを行い、ゲノムサイズが大きいことで知られる有尾類においてもこの手法が有効であることを確かめた。上記2種類の核マーカーを用いて東北地方産ハコネサンショウウオ属について集団解析を行い、側所的・同所的種間における集団動態および系統地理に関する知見を得た。 なお、本研究の野外調査の過程で山形県・福島県付近の飯豊山地のバンダイハコネ個体群において、これまで報告のなかった新たなミトコンドリア系統を発見した。この系統は他の全てのバンダイハコネ個体群が含まれる系統群と姉妹群をなし、分化程度はバンダイハコネとタダミハコネの中間程度であった。この系統は同山地内の複数の地点で、既知のバンダイハコネ系統と同所的に分布しており、また南側では狭義のハコネと分布を接しているなど、系統分類・系統地理学的に大変興味深く、上記の解析と合わせて集団遺伝学的調査を進めた。
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