本研究により、錐体路障害による下肢機能障害を呈する神経疾患患者として、慢性期脳卒中後片麻痺患者において、非侵襲的中枢・末梢神経刺激を組み合わせる新たな手法で歩行機能を再建することができた。非侵襲的脳刺激として頚頭蓋直流電流刺激を運動野に行った。また末梢神経筋刺激として歩行周期のうち、遊脚期のみ下肢屈筋群を刺激する歩行特異的機能電気刺激を行った。その結果、脳刺激を組み合わせない介入に比較して、慢性期脳卒中片麻痺患者の歩行速度の上昇、歩幅の拡大が可能となり、歩行能力の回復が可能となった。また、下肢筋における皮質脊髄路の興奮性が増加し、脳における神経可塑性を誘導した結果、歩行機能が回復したと考えられた。 従来、ヒトにおいて、皮質脊髄路(錐体路)の重度の損傷では、歩行機能は回復されなかった。また、脳卒中後片麻痺患者においてトレッドミル歩行訓練中に、一次運動野の下肢領域に非侵襲的脳刺激を行った報告はあるが、歩行特異的な刺激については報告がない。介入として、歩行訓練中に非侵襲的脳刺激+末梢神経刺激を同時に行った点も本研究の特色である。 本研究の結果、車椅子での生活を余儀なくされている多くの患者にとって生活の質(QOL)、日常生活能力(ADL)の向上が期待される。また、車椅子では就労も制限されるため、車椅子の患者が歩行可能になれば、高齢化社会の日本において、生産人口の増加という点でも社会的意義は非常に大きい。
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