本研究は,一般人と医療の専門家とが公知な医療行為に対して抱くリスクの認知の違いを明らかにすることを目的とするものであった。また,年齢層を若年,中年,高年と幅広く対象にすることで,年齢層によるリスク認知の相違を明らかにすることを目指した。 本年度は一般人と医療の専門家(医師,看護師,薬剤師)で様々な医療行為に対して想定するリスクの内容についてその差異を検討した。その結果,多くの医療行為において一般人は医療行為に「危険がある」と評価している人の割合が低く,医療従事者,特に医師と看護師は医療行為には「危険はある」と評価している人の割合が高いことが示された。また,一般人の想定するリスクは医学的には誤ったリスクである割合が医療従事者と比べて高く,特にX線検査,血液検査,MRI / fMRI,腹腔鏡手術,気管切開術,人工呼吸器ではその傾向が顕著であった。ただし,看護師においてもステロイド薬については医師と比較して誤ったリスクを想定した割合が高かった。医師や看護師は,一般人や薬剤師よりも具体的なリスクを想定し報告した。医師,看護師,薬剤師という専門家のなかでは,薬剤師は医師や看護師に比べて抽象的なリスクを想定して報告した。また,一般人では,悪い印象や恐怖といった漠然としたリスクの報告や医療行為そのものの有効性を疑った回答が医療従事者に比べて多く見られた。一般人と医療の専門家とで公知な医療行為に対して抱くリスクイメージの違いについて,量的・質的の両面から検討された。
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