研究課題/領域番号 |
26870326
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
松林 哲也 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (40721949)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 自殺 / 鉄道自殺 / 自殺対策 / 著名人自殺 / 早生まれ |
研究実績の概要 |
本研究は(1)メディアにおける自殺報道の内容が一般の人々の自殺に与える影響、(2)これまでの自殺対策の効果の検証、(3)人々を取り巻く制度環境が自殺に与える影響、の3課題についての研究を推進している。各課題の実績を以下にまとめる。 *自殺報道の影響:新聞記事データの分類を開始した。読売新聞社の記事データベースを用い、1986年以降2012年までに発行された自殺に関する約20000件の記事の中から、一般の人々の自殺や心中に関する記事を抜き出すためのルールを定め、複数の研究補助者による記事の仕分けを進めている。現時点で2001年から2012年までの記事仕分けやその内容の分類が完了している。 *自殺対策の効果の検証:鉄道駅のプラットホーム上に設置されるホームドアが自殺防止に役立つかどうかを検証するため、韓国ソウルメトロより独自にデータを入手して分析を行った。その成果を Journal of Affective Disorders誌(2016年1月)で共著論文として発表した。本研究では、プラットホームから天井までを覆うドアは自殺を完全に防止すること、しかし背の高さまでのドアは自殺防止効果が弱いことを示した。 *制度環境と自殺:日本における早生まれがより高い自殺率につながるという因果関係を検証し、その成果を2015年6月にカナダで行われたWorld Congress of the International Association for Suicide Preventionで発表した。さらにその改訂版を共著論文としてPLoS ONE誌(2015年8月)発表した。この研究では、日本の教育制度では一学年は4月2日生まれから翌年の4月1日生まれの生徒までで構成される事実を用い、4月2日前後に生まれた15歳から25歳の若者の自殺率を比較した。分析の結果、4月2日及びその直後に生まれ、学年内で相対的に年齢が高い若者の自殺率と比較して、4月2日直前に生まれた(つまり早生まれの)若者の自殺率が約30%高いことが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
各課題の達成度や課題を以下にまとめる。 *自殺報道の影響:今年度は1986年から2000年までの自殺関連記事の仕分けと分類作業を進める。分類作業が終了した後には、各年月日に発行された自殺に関する記事の種類や内容が日々の自殺数にどのような影響を与えたのかを調べるための統計分析を行う。記事の仕分けや内容分類のルールを確定することに時間がかかったため、進捗が若干遅れている。またNHKデータアーカイブスの学術利用トライアルに申請してテレビにおける自殺報道のデータベースを構築することを予定していたが、アーカイブスの利用可能期間の制約のため断念した。テレビ報道の代わりに、インターネット閲覧に注目した分析を行うこととする。 *自殺対策の効果の検証:平成26年度に続いて、鉄道自殺に関する研究を査読付き国際学術誌に発表することができた。自治体が実施する自殺対策の効果を調べるため、内閣府が取りまとめた「地域における自殺対策取組事例集」を参考にして、過去数年間に実施され自殺対策についての調査を行った。しかし、データの制約上、効果の厳密な検証が可能な対策の実例を見つけるのは難しい事例が多いことがわかった。そこで自治体による自殺対策にこだわらず、政府や政府の支援を受けて行われているNGO団体などの自殺対策に注目した分析を行うこととした。 *制度環境と自殺:早生まれの効果に関する研究を査読付き国際学術誌に発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
各課題の推進方策を以下にまとめる。 *自殺報道の影響:収集した記事の内容分析を行う。指標化する内容としては、自殺者に関する基本的な情報に加えて、自殺の方法、自殺の手段や動機についての描写の程度などを予定している。これらの情報の日々の自殺数に与える影響を統計分析で調べる。またテレビ報道に代わるメディアとして、インターネット閲覧と自殺の関係を探る。具体的には、著名人の自殺に関する報道後の人々のSNS(ソーシャルネットワークサービス)上での反応を分析することを通じて、なぜ著名人の自殺報道が一般の人々の自殺を増やすのかについてのメカニズムを解明することを目指す。ツイッターのように人々が自らの気持ちや意見を日々投稿するSNSは、著名人の自殺という大きなニュースに対して一般の人々がどのように反応しているかを明らかにするための絶好のデータソースである。 *自殺対策の効果の検証:政府の支援を受けて一般社団法人・社会的包摂サポートセンターが実施している「よりそいホットライン」の自殺防止効果を測定する。よりそいホットラインには日々平均で宣告から3万件もの電話が寄せられ、そのうち600件が相談員との相談につながっている。都道府県別に日々の電話数や相談件数をまとめ、それらが自殺率にどのような影響を与えたかを統計分析により明らかにする。 *制度環境と自殺:教育制度が若者の自殺に与える影響を引き続き調べる。若者の自殺数の年間サイクルに注目し、特定の時期に自殺数がなぜ増えたり減ったりするのかを明らかにする。人口動態調査データを用い、1月1日から12月31日までの各日付の自殺数を年代別(小学生、中学生、高校生、大学生、23歳以上26歳まで)にまとめる。これを用い、学期の始まる4月や9月に自殺が増えること、休み期間中の8月初めや12月終わりには自殺が減るかどうかを調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
英文校正費用が予定よりも少なかったため、若干の未使用額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
記事分類を行う事務補佐員の雇用、5月に東京で行われるIASP Asia Pacific Regional Conference参加費用、英文校正費用として使用する予定である。
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