研究課題/領域番号 |
26870335
|
研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
國井 政孝 大阪大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (80614768)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
キーワード | SNAP23 / SNARE蛋白質 / 開口放出 / 神経発生 / インスリン分泌 |
研究実績の概要 |
本研究は、細胞内において膜蛋白質や分泌蛋白質を輸送する小胞と細胞膜との融合に働くSNARE蛋白質であるSNAP23の遺伝子欠損マウス(KOマウス)を用いて、脳の組織形成や膵内分泌におけるSNAP23の機能を解明することを目的としている。 神経特異的SNAP23 KOマウスでは大脳皮質や小脳の形成不全が生じることから、胎生期の大脳皮質における神経発生について形態学的な解析を行った。その結果、SNAP23 KOマウスでは神経前駆細胞の形態異常が見られ、それに伴って新生ニューロンの遊走異常や細胞死が起きていることが明らかとなった。 膵内分泌腺特異的SNAP23 KOマウスでは、グルコース刺激後の血糖値がコントロールマウスに比べて低値となり、2光子励起顕微鏡や全反射顕微鏡を用いたインスリン顆粒の開口放出の観察によって、KOマウスの膵β細胞でインスリン分泌頻度が増加していることを明らかにした。この結果から、膵β細胞においてSNAP23の作用を抑制することでインスリン分泌を亢進させることが可能であると考えられたことから、SNAP23に特異的に結合する低分子量化合物の探索を理研ケミカルバイオロジー研究基盤施設と共同で行い、数種類の候補化合物を得た。この候補化合物を用いて、膵β細胞株であるMIN6細胞やマウスから単離した膵β細胞からのインスリン分泌を解析したところ、1つの化合物がインスリン分泌を促進することが明らかとなった。このことは、SNAP23結合化合物が糖尿病治療の新規薬剤候補となり得ることを示唆している。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では脳と膵臓という2つの組織におけるSNAP23の機能を解明するため、それぞれの組織特異的KOマウスを並行して解析している。その内、膵内分泌特異的KOマウスの解析はおおむね計画通りに進展し、SNAP23の機能を抑制するとみられる低分子化合物の同定に至った。この化合物は膵β細胞からのインスリン分泌を促進することが明らかとなり、糖尿病の新しい治療薬の候補になることが考えられた。現在はこれまでに得られた結果をまとめ、論文投稿の準備中である。 また、神経特異的KOマウスの解析についても、神経前駆細胞における細胞間接着分子N-cadherinの細胞内輸送の解析や、細胞膜への局在化の際にSNAP23と複合体を形成するSNARE蛋白質の同定に着手しており、これらの結果が得られ次第、論文作成に移る予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
膵内分泌腺特異的SNAP23 KOマウスの解析は概ね完了しているため、今後は神経特異的SNAP23 KOマウスの解析に重点を置く。 神経特異的SNAP23 KOマウスの発生期大脳皮質における神経前駆細胞の形態異常が、細胞間接着の欠失によるものであると考えられたため、SNAP23およびそのパートナーとなる他のSNARE分子が細胞間接着分子の細胞膜への輸送・局在化に働いていることが推測された。この仮説を証明するため、神経前駆細胞の初代培養系を用いてGFP融合N-cadherinの細胞内輸送のライブセルイメージングを行う。 また、siRNAスクリーニングを用い、神経前駆細胞の細胞間接着やN-cadherinの細胞膜局在に影響を及ぼすSNARE蛋白質を同定し、N-cadherin輸送におけるSNAP23のパートナー分子を決定する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本年度は研究に使用するノックアウトマウスがすでに作製済みであったことや、共同研究者との打ち合わせの回数が少なかったことなどがあり、当初の予定金額と実際の執行額が異なってしまったが、研究計画に変更はなく、次年度に全額執行予定である。
|
次年度使用額の使用計画 |
次年度は共同研究者との打ち合わせや学会発表の旅費、抗体やELISAキットなどのやや高額の消耗品の購入により予算を執行する予定である。
|