本研究課題では細胞膜を介するイオン輸送を制御することにより、細胞内イオン動態と細胞応答機構の連関を理解することを目的としている。平成27年度までに光受容イオンチャネル・チャネルロドプシン(ChR)遺伝子を筋芽細胞に導入し、青色光を照射すると遺伝子発現および細胞形態に差異が認められ、光刺激による細胞活動の動的な変化が細胞分化を調節することを見出した。今年度はH27年度までに刺激条件の探索が効率的に進んだため、研究計画を変更して補助事業期間延長による追加の研究を実施した。 これまでに構築した光刺激培養システムを用いて光を照射する時期や周期、持続時間、強度などの刺激条件についてさらなる検討を行い、細胞活動を規定する細胞内イオン動態と細胞分化の関連について検証を行った。刺激を与えた細胞において、筋分化誘導初期に関与していることが報告されているERK5経路の下流の転写調節因子の発現亢進が認められた。筋分化過程において単核の筋芽細胞(筋前駆細胞)は互いに融合することで多核の合胞体である筋管細胞を形成する。培養5日目の筋管細胞をコントロール群と比較したところ、太さや長さに差異が確認された。ChRを用いた光刺激が筋芽細胞の融合を促進させることで筋管細胞の成長、肥大化を引き起こしていることが示唆された。また照射する光の間隔や時間、時期などを検証したところ、一過性や持続性、周期性など刺激の時間的なパターンによって異なることが認められた。
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