研究課題
ヒトは年を重ねるにつれて、記憶力・集中力が低下していく。しかし、老化による記憶障害の仕組みは、ほとんど分かっていない。そのため、様々な要因で引き起こされる精神・神経疾患のメカニズムと治療法開発のためには、ヒト疾患によく対応したモデル動物が求められている。核-細胞質間輸送は、記憶・学習・情動などの高次情報に関わるシグナル因子を核内へと速やかに伝えるという重要な働きをしている。平成27年度は、精神・神経疾患の候補因子となっている核輸送因子importin α遺伝子欠損マウスを用いた行動解析を行い、解析データをまとめにはいっている。また、importin αに結合する因子について、質量分析を用いた網羅的解析を行った。質量分析により得られたデータを基にいくつかの因子について遺伝子をクローニングし、様々な欠失変異体を作製し、培養細胞に遺伝子導入することで核内輸送シグナルとして働き得る領域の同定をすることができた。さらに、GST pull-down assay およびin vitro transport assay など様々な解析を行い、いくつかについて学術論文に投稿することが出来た。
2: おおむね順調に進展している
平成27年度は、importin α遺伝子欠損マウスを用いての行動解析を行い、運動、認知、社会性などの高次脳機能におけるimportin αの役割の解析を行っており、当初の計画通りに進んでいる。また、importin α遺伝子欠損マウスで異常を示すシグナル経路と関連する因子の同定するため、importin αと結合する因子の質量分析法による網羅的同定・解析も進めている。その中で、同定した因子の中で、転写調節因子であるTripartite motif-containing 28 (TRIM28)がimportin αにより輸送されていること、さらにTRIM28のimportin αとの結合領域が、核内のヘテロクロマチン形成に重要な役割を果たすHeterochromatin protein 1β (HP1β)とTRIM28との結合領域と重なっており、TRIM28-importin α複合体がHP1βにより解離してことを発見した。このことは、importin αが核内輸送としてだけでなく、核内でHP1の多いクロマチン領域に効率よく引き渡す働きをしている可能性を指摘した(Biochem Biophys Res Commun. 2015)。さらに、近年発見された卵子及び初期胚時期のみに発現が確認されているimportin α8が、他のimportin αと同様に核内へ輸送する活性を持つだけでなく、輸送基質特異性を持っていることも発見した(Biochim Biophys Acta. 2015)。興味深いことに、同定した因子の中には、核内輸送される基質だけでなく、核内で輸送基質をimportin α輸送複合体から取り外す因子retinoblastoma binding protein 4 (RBBP4)を見出し、さらに細胞老化とともにその因子が減少することがimportin αによる核内輸送能の低下へと至るという、新しい細胞老化メカニズムの一端を解明した(J Biol Chem. 2015)。
平成28年度は、本研究の最終年度であることから平成26年度と平成27年度のこれまでの解析結果を基にして、生化学的・分子生物学的解析を行い、脳内でどのようなシグナル経路が亢進・抑制されているかなどのデータをまとめて報告する。また、質量分析を用いたimportin αに結合する因子についてさらに解析を進めていく。
当初通り研究は進んでいるが、論文の校正及び投稿費に間に合わなかったため
論文の校正及び投稿費として次年度使用する
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Scientific reports
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