研究課題
ヒトは年を重ねるにつれて、記憶力・集中力が低下していく。しかし、老化による記憶障害の仕組みは、ほとんど分かっていない。そのため、様々な要因で引き起こされる精神・神経疾患のメカニズムと治療法開発のためには、ヒト疾患によく対応したモデル動物が求められている。核-細胞質間輸送は、記憶・学習・情動などの高次情報に関わるシグナル因子を核内へと速やかに伝えるという重要な働きをしている。精神・神経疾患の候補因子と報告されているいくつかの核-細胞質間輸送因子に着目し、遺伝子欠損マウスを作製した。そして、作製したマウスについて、病理学的解析や様々な行動解析などを行った。精神・神経疾患患者の臨床データや既存のモデルマウスの解析データを基に、新規モデルマウスとなるのかを検討した。その結果、importin α1 (KPNA1)遺伝子欠損マウスは、ストレス負荷によって行動異常を呈するストレス脆弱性を有することが分かった。本マウスは、統合失調症、学習障害、認知症、うつ病、薬物依存症などの精神疾患に対して、遺伝因子と環境因子を考慮した新しい動物モデルとして有用であると考え、特許出願を行った(特願2017-026027)。さらに、importin α遺伝子欠損マウスで異常を示すシグナル経路と関連する因子の同定するため、importin αと結合する因子の質量分析法による網羅的同定・解析も進めた。平成28年度は、質量分析により得られたデータの中でもペントースリン酸経路で働く代謝酵素の1つであるトランスアルドラーゼ(TALDO1)に着目した。そしてTALDO1が、細胞内では異なる翻訳開始点を持つ2種類のTALDO1が存在し、その違いであるN末端の10アミノ酸残基が核局在に必須であること、さらにはTALDO1の細胞内の局在が、他の代謝経路に大きく影響を及ぼすことを明らかにした(Moriyama T, et al. Sci Rep. 2016)。
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scientific reports
巻: 6 ページ: 34648
10.1038/srep34648.
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