平成26年度は、マイノリティの言語的人権や複言語教育のあり方、西欧での言語教育についての理論的背景のまとめに力を注ぐとともに、移民の生徒に対する小学校の教育現場レベルでの工夫を見た。 10月の日本独文学会では、複言語地域の1つであるイタリアのラディン語地域の識字言語教育の状況や言語政策に関しての発表を行った。イタリア語、ドイツ語、ラテン系の少数言語であるラディン語を同時に教育し、成果をおさめている状況や原因を分析し、他の研究者と共同で発表した。複数の言語で同時に識字を行う当該地域の言語教育は、言語教育政策の変更を迫られつつあるルクセンブルクの状況にも大いに示唆的であり、本発表も本研究との関連と位置づけている。 11月から12月にかけてルクセンブルクに滞在し、文献および現地調査、そして研究者との意見交換を行った。調査ではルクセンブルク市内のCentsおよび移民の特に多いBoonevoie小学校を訪問し、授業の様子、特にルクセンブルクに来たばかりの生徒にドイツ語やフランス語を(で)教える導入の授業、およびドイツ語の授業に遅れがちな生徒のための特別授業の様子を見学した。また、現場の教員や校長にインタビューを行い、ドイツ語を得意としない移民の子に対するドイツ語教育で苦労している点、工夫している点などについて話を伺った。ドイツ語教育でもルクセンブルク語や他の言語も補助言語として用いていることや、保護者との話し合い、CEFR(欧州言語共通参照枠)に基づいた成績評価のメリット・デメリットなどについても生の声を聞くことができた。現地の研究者とは今後の研究について意見交換を行うだけでなく、私立の学校への補助金制度や、教育省の取り組みとその限界などについて話を伺った。
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