これまでの2年間では、マイノリティの言語的な人権への配慮や複言語教育のあり方について現場レベルでの工夫から見てきたが、最終年度である平成28年度は、政策を立案し実行していく側がどのような思惑や配慮のもとにこれまで政策を実施し、今後新たな政策を打ち立てていくのかについての調査研究を行った。 これまでの現場レベルでの工夫についてまとめた後、11月~12月にルクセンブルクに出張し、最新資料の収集を行った。また、教育省がどのような施策を実施しようとしているのか、どのような効果を期待しているのかといった試みについてのインタビュー調査を行った。さらに、人権および教育社会学的な分野でルクセンブルク大学の研究者に最新の動向や研究の方法についてディスカッションを行い、研究をまとめていくための知見を得た。 ルクセンブルクの教育システムが格差を生み出しやすいものであり、そこに移民の社会階層および言語的なハンディキャップが重なることで一層の問題を引き起こしている様子がわかった。そのためにフランス語をどのように早期に導入するか苦心している様子がうかがえた。 5月の日本独文学会では、フランス・アルザス地方におけるフランス語およびドイツ語の二言語教育政策との関わりで、ルクセンブルクの言語教育政策、特にドイツ語による識字の上でのフランス語教育を行う事情と移民政策との関わりを論じた。6月の言語政策学会では、ドイツ語が話される地域であるイタリアのアルト・アディジェにおける二言語もしくは三言語教育との比較研究を行った。12月の京都ドイツ語学研究会では、ルクセンブルクにおけるドイツ語教育が実際に社会階層の再生産につながる様子を提示した。研究の成果は今後さらに論文としても発表していく予定である。
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