研究課題
本研究は、光化学系I(PSI)とPSIを還元する蛋白質プラストシアニン(Pc)が形成する電子伝達複合体のX線結晶構造解析を行い、PSI還元メカニズムの構造基盤を解明することを目的とする。具体的には、PSI構造とPSI-Pc複合体構造を比較し、複合体形成により構築された最適な電子伝達の反応場を原子レベルで直接的に捉え、効率よくPSIを還元する構造基盤を明らかにする。また、Pc結合に由来するPSIの構造変化、特にPsaFを介した細胞質側とルーメン側のクロストークを捉えることも目指している。フェレドキシン(Fd)がPSIを酸化する際に形成するPSI-Fd複合体のX線結晶構造より、Fdが結合することでPsaC、EがPSI三量体の外側に向かって動き、さらに連続してPsaFがルーメン側に向かって移動することが明らかとなった。そこで、PsaFにPcが結合した場合に、結合情報がPsaFを介して細胞質側に伝達されるべく構造変化を起こすかどうかを明らかにする。今年度は、シアノバクテリアSynechocystis sp. PCC 6803のΔPsaK2-PsaF-His株から精製したPSI三量体の結晶化条件最適化を昨年度よりも詳細に行った。沈殿剤は、昨年度決定した沈殿剤PEG2000を用いて、その濃度(3 % - 26 %)、バッファーの種類、pH(7.0 ~ 9.5)、塩の種類と濃度(0 ~ 800 mM)を4℃と20℃にて詳細に検討した。その結果、750 mM高塩濃度で最も大きな良質の結晶を得た。今後はこの結晶に適した不凍剤の種類を詳細に検討する。また共結晶化スクリーニングを行う。
3: やや遅れている
Synechocystis sp. PCC 6803のΔPsaK2-PsaF-His株から精製したPSI三量体の結晶化条件最適化を詳細に行い、厚みのある単結晶を得ることに成功した。Pcについては、シアノバクテリアの破砕上清から結晶化サンプルを精製する条件の検討を行っている。また、PSIとPcの相互作用に適した塩の種類と濃度を決定する必要があり、共結晶化スクリーニングに向けて200条件の結晶化溶液を作製した。
今後は現在得られているPSI結晶の不凍条件を検討する。具体的には、グリセロール、ショ糖、エチレングリコールなど多種多様な不凍剤の中からPSIに適したものをスクリーニングし、その不凍剤の浸透方法や浸透時間を詳細に検討する。また、PSIをさらに安定化するために、両親媒性ポリマーAmphipol(Apol)を導入する。多種多様なApolの中から、電荷の無いNon ionic glucose-based APolを利用して蒸気拡散法での結晶化を試みる。金属置換再構成Pcを作製するにあたり、大量のPcを調整する。その後、AgまたはCd置換再構成Pcを作製し、既に作製した結晶化溶液を用いてPSIとの複合体結晶化スクリーニングを進める予定である。
結晶構造解析が専門の研究室から光合成が専門の研究室に移籍したため、今年度は結晶構造解析が出来る環境を整えることに殆どの時間を費やした。また育児により研究時間が大幅に減った。これらの理由により、この期間に使用する予定であった試薬や機材を購入出来なかったため。
X線回折データを得るために、大型放射光施設SPring-8にてX線回折実験を行う予定をしており、そのための出張費及び結晶タンク輸送費が必要となる。また、膜蛋白質の結晶の質を改善するためには、多種多様な界面活性剤から目的の膜蛋白質の精製と結晶化のそれぞれに最適な物を選択する必要がある。さらに、蛋白質精製に用いる樹脂などの消耗品、蒸気拡散法やバッチ法による結晶化には専用のグリス付プレートやガラス板、そして結晶の不凍処理に必要なクライオループ、液体窒素中でハンドリングするためのトングなどが必要である。また、金属置換再構成Pcを作製するために必要な試薬も購入する。これらの物は本研究を遂行するためには必要な物である。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (2件)
Biochemistry
巻: 54 ページ: 6052-6061
10.1021/acs.biochem.5b00601