研究課題/領域番号 |
26870359
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
朝倉 三枝 神戸大学, その他の研究科, 准教授 (90508714)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | ポール・ポワレ / ウィーン工房 / エコール・マルティ―ヌ / デザイン教育 / ジャン・デュナン / パリ・モード |
研究実績の概要 |
本研究のテーマに基づき、平成27年度は同年9月1日~14日まで、オーストリアとフランスで調査を行った。最初に訪れたウィーンでは、クチュリエとして活動を展開していたポワレが、1911年以降、衣服にとどまらず、ライフスタイル全般に及ぶ幅広いデザイン活動を行うようになる、そのきっかけをもたらしたウィーン工房について調べるため、オーストリア応用美術博物館、ウィーン・ミュージアム・カールスプラッツ、セセッシオンで作品と資料調査を行った。続いて訪れたパリでは、フランス国立図書館と装飾美術館、そしてガリエラ美術館を中心に資料調査を行い、ポワレが1911年に開設した少女のためのデザイン学校、エコール・マルティーヌのデザイン教育と活動に言及している記事の徹底的な洗い出しを行った。 帰国後は、調査旅行で得た資料を整理しながら、ポワレとウィーン工房の影響関係、さらにエコール・マルティーヌにおけるデザイン教育とその活動について考察を行った。ウィーン工房に関しては、ポワレが影響を受けたと考えられるウィーン工房製の家具やテキスタイルを何点か見出すことができたが、ポワレとウィーン工房の直接の交流を示す資料の発見には至らなかった。一方、エコール・マルティーヌに関しては、デザイン学校が創設された当初から、教師もつかず、少女たちが各自の感性を自由に育むという教育法が注目を集めていたことが複数の記事から確認された。また授業風景をとらえた写真も新たに発見し、これまでほとんど具体的な詳細が伝えられてこなかったエコール・マルティーヌについて、その実態が一部ではあるが明らかになったという意味で重要な成果をあげたといえる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の目的は、20世紀初頭にパリのモード界を牽引したクチュリエ、ポール・ポワレの活動を、近代デザイン運動という新たな文脈からとらえ直し、その役割を解明しようとするものである。2年目の調査では、ポワレが「総合芸術」という観点から生活全般に及ぶデザイン活動を展開するきっかけをもたらしたウィーン工房の影響関係について調査を行ったが、ポワレと工房のデザインの類似をいくつか認めるにとどまった。また、エコール・マルティーヌに関しては、先行研究でまだ紹介されていない新たな資料の発見が複数あった。なお、この3月に、共著で『フランス・モード史への招待』を出版し、都市の現代化を「ブティックの展示」という観点から読み解いた論考をまとめたが、その中で1924年のサロン・ドートンヌに参加したポワレのブティックの展示についても考察を行った。その他、ポワレからは外れるが、調査の中で見出した資料を活用し、ポワレと同じ時代のフランスで活躍した漆作家、ジャン・デュナンのモードの仕事に関する論考を発表した。したがって、一部の遅れと変更はあったものの、おおむね順調に研究成果をあげているものと思われる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度には、再びフランスを中心に調査旅行を行うが、可能であればオーストリアで再び調査を行い、ポワレとウィーン工房の影響関係について、具体的な交流があったのかどうかの確認も含め、さらに踏み込んだ考察を行いたい。また、次年度は本研究の最終年にもあたるので、これまでの研究成果を学会発表や論文発表という形で発表し、これまでクチュリエとしてばかり評価されてきたポワレを、同時代のデザイン運動の中に位置付け、新たなポワレ像を提示したい。 また、これまで行った調査旅行の中で、漆作家のジャン・デュナンや画家の藤田嗣治がパリのモード界で行った仕事に関する資料を新たに発見した。本来の領域を飛び越え、モードの世界でも独創的な仕事を展開したデュナンと藤田は、モードの世界に身を置きながら、生活全般に渡るデザイン活動を展開したポワレと表裏一体の関係にあるとも言えるので、彼らに関する考察も可能な範囲で進め、この時代のモードと芸術の重層的なつながりを明示したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究を進めるにあたり、必要に応じて研究費を執行していたため、当初の見込み額と執行額にずれが出てしまった。
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次年度使用額の使用計画 |
研究計画に大きな変更はないので、最終年度にあたる本年度は、研究費を計画的に執行し、研究成果をまとめたい。
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