本研究の目的は、申請者が発見した鉄腐食性のメタン生成菌のみが持っている新奇ヒドロゲナーゼを精製し、その反応機構を明らかにすることである。微生物による金属腐食の大きな問題は、反応機構が不明ということである。申請者は、世界に先駆けて金属腐食能とリンクした新奇ヒドロゲナーゼを発見している。本研究では、本酵素を精製して金属腐食能を直接証明し、さらに、立体構造を決定することで新奇反応機構の解明を目指す。本酵素の反応機構の解明は、固体界面で機能する新奇酵素の開発や有効な微生物腐食防食剤の開発等の発展性を持っており、学術面と応用面から価値のある研究である。さらに、金属腐食のコストは日本で約2兆円/年も掛かっており、経済的な側面からも実社会への貢献が大きい。 本目的を達成するため研究期間内に、次の二点を明らかにする。新奇ヒドロゲナーゼを精製し、単独で金属腐食が生じることを証明する。そして、新奇ヒドロゲナーゼの立体構造を決定し、その反応機構を明らかにする。 平成26年度は、新奇ヒドロゲナーゼの精製について重点的に行い、水素発生条件の検討、メタン菌からの精製、および大腸菌での異種発現を行った。水素発生条件の検討は概ね完了し、その条件を用いてメタン菌からの酵素精製を検討したが精製には至らなかった。 平成27年度は、各種方法で精製を進めると共に、遺伝子配列から推定されるアミノ酸配列に基づき、統合計算ソフトを用いて詳細に構造をモデリングした。その結果、水素の発生に寄与すると考えられているラージサブユニットでは既知のヒドロゲナーゼと構造の一致度が高く、分子内電子伝達に関与するスモールサブユニットでは構造が著しく異なることが明らかとなった。したがって、本酵素が金属表面から電子を受け取る際に、スモールサブユニットが重要な役割を演じていることを明らかにした。
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