研究課題
癌組織内に浸潤するマクロファージは癌細胞の増殖能・運動能の促進などを介して癌進展に寄与する。我々は食道扁平上皮癌組織においてマクロファージの浸潤数が多い症例ほど予後不良である事を明らかにしたが、食道扁平上皮癌の発癌初期段階におけるマクロファージ浸潤に着目した研究は少ない。予備的に実施した研究では、食道扁平上皮癌の前癌病変に相当する食道上皮内腫瘍の段階で既にマクロファージが浸潤している事を見出した。平成26年度は、食道上皮細胞とマクロファージの異種細胞間相互作用について解析した。具体的には、ヒト食道正常扁平上皮細胞株Het-1Aとin vitroでマクロファージ様に分化させたヒト単球性白血病細胞株THP-1との間でトランスウェルを用いた間接共培養系を確立した。マクロファージ様細胞との間接共培養によってHet-1Aの増殖能・運動能は有意に亢進した。間接共培養後のHet-1Aではp38 MAPキナーゼのリン酸化および核内移行が誘導された。さらには、p38 MAPキナーゼ阻害剤を間接共培養系に添加すると、阻害剤の濃度依存的にHet-1Aの増殖能・運動能は低下した。食道上皮内腫瘍症例を用いてリン酸化p38 MAPキナーゼの免疫組織化学を施行したところ、約半数の症例で腫瘍細胞が陽性となった。以上から、マクロファージから分泌される液性因子は食道上皮細胞に作用し、p38 MAPキナーゼの活性化を介して増殖能・運動能を亢進させる事を明らかにした。
1: 当初の計画以上に進展している
ヒト食道正常扁平上皮細胞株とマクロファージ様細胞株を用いた間接共培養系を確立した。この系の解析によって間接共培養後のヒト食道正常扁平上皮細胞株で活性化されるシグナル分子としてp38 MAPキナーゼを見出した。以上の成果はin vitroによる解析結果であるが、当初次年度に予定していた食道上皮内腫瘍症例の免疫組織化学によるin vivo解析を行ったところ、腫瘍組織においても約半数の症例でp38 MAPキナーゼのリン酸化が亢進している事を見出し、当初の計画以上の成果を得る事が出来た。
ヒト食道正常扁平上皮細胞株とマクロファージ様細胞株との間の異種細胞間相互作用を媒介する分子を同定する事を目指す。具体的には、それぞれの単独培養および間接共培養を行い、培養上清の回収やタンパク質・RNAの抽出を行う。培養上清を用いてwestern blot-based cytokine arrayを行い、間接共培養上清中において分泌の亢進しているサイトカインを網羅的に解析する。得られた結果をELISAやwestern blottingによって確認し、また、PCRを用いてどちらの細胞株において遺伝子発現が亢進しているのかを見出す。分泌の亢進していたサイトカインに対する中和抗体を用いて異種細胞間相互作用(増殖能・運動能亢進)が抑制されるかどうかを検討する。さらには、食道上皮内腫瘍症例の免疫組織化学によってin vivoにおける重要性を検討する。
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Digestive Endoscopy
巻: - ページ: -
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