熱電発電素子においてナノ構造制御は重要な要素の一つである。一方、ナノ材料である生体超分子には、自己組織化能力や均一構造の利点があるため、機能性ナノ構造を形成することで熱電性能の向上が期待できる。本研究では、粒子間隔を制御するためにPEG修飾フェリチンを用いた。 当初、熱電母体材料としてBiTeを用いる予定だったが、タンパク除去工程でBiTe表面が酸化され、熱電性能が低減することが明らかとなった。そのため、タンパク除去工程での影響がない酸化物熱電材料に転換した。また、ナノ粒子の効果のみを評価する必要があるため、粒界の影響を受けない非晶質材料を選択し、アモルファスInGaZnO(a-IGZO)を用いた。IGZOは透明・フレキシブル化が可能な酸化物半導体であり、ディスプレイ応用として広く研究されているが、熱電特性はほとんど評価されていなかった。そこで、まずa-IGZO薄膜の基礎的熱電特性評価を行った。キャリア密度を制御することで熱電性能が最大となる条件を明らかにした。さらに、パーコレーションモデルを利用した理論解析により測定結果が説明できることを示した。 この酸化膜に対しフェリチンナノ粒子を埋め込み、熱電性能の評価を行った。ナノ粒子材料には酸化鉄、酸化コバルト、酸化インジウム、金、白金を用いた。ナノ粒子導入により、導電率は増加し、ゼーベック係数は減少した。導電率向上の効果が大きかったため、熱電性能(PF)値は約2倍に増加した。吸着密度を制御した結果、密度が高いほど性能向上がみられた。この向上効果は、ナノ粒子の材料元素による効果ではなく、ナノ構造により形成されたa-IGZO/基板界面での欠陥が影響していると考えられる。また、キャリア密度を最適化したa-IGZOを用いてITOを対電極とする薄膜熱電素子を試作し、透明熱電素子として利用可能であることを示した。
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