研究課題/領域番号 |
26870383
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研究機関 | 岡山大学 |
研究代表者 |
鈴木 越治 岡山大学, 医歯(薬)学総合研究科, 助教 (10627764)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 健康格差 / 社会疫学 / 環境疫学 / 自殺予防 / 因果推論 / 疫学理論 / マルチレベル分析 / ナショナルデータ |
研究実績の概要 |
近年,わが国における自殺の地域間格差は拡大しており,その対応が急務となっている。拡大する地域間自殺格差の背景として,地域の社会経済的特性が個人の特性を超えて影響を及ぼしているのか,また影響しているとすれば,近年の地域間格差拡大に伴って影響の程度が強くなっているのかを評価した。25歳から64歳の全人口を対象として,1975年から2010年の35年間にわたる各都道府県における自殺リスクの変遷を評価すると同時に,各都道府県の経済状況(平均収入,平均貯蓄高,平均収入のジニ係数)の変遷を評価することにより,自殺の地域間格差拡大に及ぼす地域の経済状況の影響を検証した。個人の特性を超えた地域の社会経済的特性の影響を評価するために,マルチレベルロジスティック回帰モデルを用いて分析した。その結果,男性において,地域の平均貯蓄高や平均収入が低い場合に自殺リスクが高まること,特に近年ではその傾向が強まっていることが示された。一方でジニ係数に関しては,日本の先行研究結果と異なり,男女とも自殺リスクとの明確な関連は認められなかった。これらの知見は,男性における自殺の要因について,文脈的要素の重要性が高まっていることを示唆すると考えられる。本研究結果を踏まえると,自殺の原因として,個人の社会経済的要因が及ぼす影響が重要であることは言うまでもないが,有効な自殺対策のためには,地域の社会経済的状況にも焦点をあてる必要があると考えられる。国内外のこれまでの研究では,個人の特性を調整することなく地域の社会経済的特性と自殺リスクの関連を単純に評価しているため,地域の社会経済的特性の影響を正しく評価することができていない。そのため,本研究の知見は,国際的にも重要な学術的示唆を与えると考えられる。 加えて,健康格差を評価する際に考慮すべきバイアスの性質を明らかにするために,疫学・統計学理論の観点から考察を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成26年9月,11月,平成27年3月に海外の研究協力者との会合をもち,本研究遂行について打ち合わせを行った。また,国内の研究協力者と共に,本研究の遂行およびデータ解析を適切に実施する上で必要となる疫学・統計学理論の構築を継続的に行っている。第87回日本産業衛生学会(5月,岡山),35th Annual Conference of the International Society for Clinical Biostatistics(8月,ウィーン),7th European Public Health Conference(11月,グラスゴー)など国内外の学会に参加して最新の関連研究等の情報収集および意見交換を行ったほか,研究成果の発表を行った。平成26年11月に開催された京都国際統計会議のInvited Session: Causality では,「Sufficient-cause model and potential-outcome model」と題して因果律に関する発表を行い,本研究遂行のために必要となる理論構築に寄与した。 データセットの作成については当初の計画より遅れているが,早急に取り掛かる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画に沿って,研究極力者との連携のもと研究を遂行する予定である。特に,わが国における死因別健康格差の推移の評価のほか,健康格差の推移に関する国際間比較を評価することに注力する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費について,当初の計画より若干少ない金額で研究を遂行できた。
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次年度使用額の使用計画 |
平成27年度の物品費に追加し,適正に使用する。
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