研究実績の概要 |
これまでの検討により、従来の手法では官能基化が困難であったアズレン環の2位の炭素-水素結合を、触媒的にケイ素化できることを見いだした。また、檜山クロスカップリング反応により、導入されたシリル基が種々のアリール基へと変換できることを予備的に確認していたが、その際の収率は低い値であった。そこで反応の詳細を調べた結果、ケイ素上に電子求引性の3,5-ジトリフルオロメチルフェニル基を有するシリル基が、クロスカップリング反応に適していることが分かった。この知見を利用し、アズレン環の2位に様々な芳香環を導入し、それらの分光学的特性を評価した。検討の結果、1位に芳香環を連結した誘導体と比べ、2位に連結した誘導体の紫外-可視吸収の吸収端は長波長側へシフトし、後者の方が共役を有効に拡張できることが示唆された。DFT法による理論計算で構造を最適化した結果、2位で連結することで、連結部周辺における水素間の立体反発が小さくなり、ねじれが緩和される結果、分子全体の平面性が増し、上記の差が現れたことが分かった。また、2位で芳香環を連結した誘導体は、酸の添加に応答して見た目の色を大きく変化させた。この変化を紫外-可視吸収の測定により追跡したところ、酸の添加により可視領域に強い吸収が現れることが分かった。塩基を加えて中和することで、この変化は元の状態に戻すことができた。アズレン単体にはこのような酸塩基反応に可逆に応答する性質はなく、本研究によりアズレン誘導体の新たな機能を開発することができた。
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