研究実績の概要 |
昨年度までに、トラスツズマブ結合金ナノ粒子(Tmab-AuNP)を作成し、in vitroでHER2陽性胃癌細胞株(NCI-N87, MKN7)に対して、コントロールよりも有意に強力な細胞障害活性を示すことを証明した。本年度は、HER2陽性トラスツズマブ抵抗性株であるMKN7を主に使用し、Tmab-AuNPとTmabを比較することで、Tmab-AuNP特有の細胞障害メカニズムの解明に従事した。蛍光標識したTmabを使用し、MKN7におけるTmabとTmab-AuNPの細胞内動態をタイムラプスイメージにて経時的に観察したところ、Tmabは細胞表面にわずかに結合するのみであったが、Tmab-AuNPは細胞表面に結合した後細胞内に取り込まれていくことが確認された。トラスツズマブ感受性株であるNCI-N87を用いた同様の実験では、Tmabも細胞内にとりこまれるもののライソゾームと共に局在しており、一方でTmab-AuNPは単独で細胞内に存在しているものも確認された。また、Tmab-AuNPはTmabと比較し、有意に酸化ストレスを誘導しオートファジーを増強することも確認されており、これらのことからTmab-AuNP特有の細胞障害メカニズムとして、細胞内に取り込まれたTmab-AuNPによる酸化ストレスやオートファジーの増強が一因と考えられた。in vivoでは、ヌードマウスにおけるNCI-N87の背部皮下腫瘍モデルを作成し、Tmab-AuNPの腫瘍内投与による治療効果を確認したところ、Tmabなどのコントロールと比較しTmab-AuNPは有意に強力な抗腫瘍効果を示した。当初計画していた尾静脈からの全身投与による検討も行ったが、Tmab-AuNPは主に肝臓に取り込まれ腫瘍への到達効率が悪かったため、同所性モデルでの治療効果の検討は断念した。
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