研究課題
申請者は,新規に発達障害患者(自閉症を含む)より見出された15q25.2-25.3染色体領域(欠失)を対象に,本領域の欠失を反映した疾患モデルマウスの作製を試みた.本モデルマウスは,ヒト型動物モデルとして患者脳内の構造変化,遺伝子発現,神経生化学的変化等を反映しうる可能性がある他,前臨床モデルとして新規薬物の効果等を解析する上で有効なモデルとなりうる可能性がある.これまで、マウス胚性幹(ES)細胞を用いて染色体工学による染色体操作を実施,500kbに渡る巨大な対象染色体領域を欠失したES細胞を得ている.本ES細胞は,マウス胚盤胞にインジェクションする事で,最終的に,ヒト15q25.2-25.3領域に相当するマウス7番染色体領域を欠失したヒト型染色体改変マウスを作製した.一方,マウスの作製には,129系統のマウスES細胞(AB2.2細胞)を使用したため,C57BL/6系統へのバッククロスが必要である.特に脳神経科学分野におけるモデル動物を用いた解析には,129系統は脳梁の形成不全・行動の異常が認められる事からバッククロスが必須である.このため,本期間は,IVF(in vitro fertilization)によるスピードコンジェニック法を適用,C57BL/6系統へのバッククロスを実施した.理論上,レシピエント系統への置換率90%以上にするには最低4回のバッククロスが,また99%以上には7回,99.9%を超えるには10回以上が必要である.今回,10回のバッククロスを終了したため,行動実験を含む各種解析を実施する体制が整ったといえる.バッククロスを終えた染色体改変マウスは,発達障害患者から新規に見つかった染色体異常を反映した動物モデルであるが,現在まで際立った表現型(異常)は認められない.今後より詳細な解析を進めていく予定である.
2: おおむね順調に進展している
今年度は特に,IVF(体外受精・顕微授精)によるC57BL/6系統へのコンジェニック化に多くの時間を割いた.現在まで,合計10回のバッククロスを実施したため,理論上99.9%以上はレシピエントのC57BL/6系統のマウスゲノムと同等と考えられる.バッククロスの途中経過における各種解析は,研究結果におけるノイズとなりうる可能性が考えられたため,特に細胞生化学的解析は中止した.一方,上記したバッククロスは特に問題無く,スムーズに進める事が出来たため,現在は予定通り行動試験を行う事ができている.
行動解析のバッテリーを開始した事から,ヒト患者の染色体異常を反映したマウスがどのような表現型を示すか明らかにしたい(アウトプットとして).現在,染色体マウスを様々な角度から解析すべくコロニーの拡大を図っているが,繁殖に少々手こずっている.雄性マウスで生殖系の異常を伴っている可能性もあり,今後組織レベルでの病理的解析も進めたい.マウス数が得られ次第,行動試験から得られた結果を基に細胞,特に初代培養神経細胞レベルの解析にフィードバックしたいと考えている.神経細胞では,スパインの形態・密度の他,突起の伸長・複雑性も同時に解析したいと考えている.また,本マウスは脳の構造にも影響を与える可能性が考えられるため,核磁気共鳴画像法による脳の構造解析も予定している.
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PLoS One
巻: 16 ページ: 1, 14
10.1371/journal.pone.0119743