研究実績の概要 |
国の特別天然記念物オオサンショウウオの保全に向けた生態研究を実施した。マイクロチップによる個体識別により成体60個体を確認し,計7つの自然巣穴と産出卵,のべ1,347尾の幼生を確認した。幼生の離散調査により,これまで謎であった幼生の巣立ちのタイミングや巣穴下流の堰堤に幼生の流下離散が制限され幼生が長期間堰堤上部に高密度に溜まっていることを明らかにした。さらに田植え時期の用水路への導水によってその幼生が田へ流され死滅している事実をはじめて明らかにした(Shimizu et al., 投稿準備中)。 年齢査定については,7個体(1-11齢)の標本の引き受けを行い指骨片の染色断面画像から年齢査定を実施し,概ね上記の年齢と大きな差が見られず,年齢査定形質として有用であることが示された(Yamasaki et al., 投稿準備中)。 環境教育プログラムについては,地元の東広島市立豊栄小学校と連携を行い小学校4年生(11~24名)に野外観察会を含む4度の出前授業を3年間実施した。 これらの成果は東広島市豊栄町で主催した「第11回日本オオサンショウウオの会全国大会」(296名参加)にて児童が発表し,児童による地域での普及啓発用の看板製作やネームプレートの製作へ展開した。また,これまでの調査成果をまとめた小学生を想定した副読本を東広島市教育委員会と協働して1万部製作・発行した。本副読本は東広島市内の全小中学校の学級図書として全クラスに配布された。 このような成果を受け,2016年1月には環境省が選定する日本の生物多様性保全上重要な里地里山に東広島市豊栄町の椋梨川が「オオサンショウウオの繁殖地」として選定された.また,2016年2月には出前授業先の豊栄小学校が「こどもホタレンジャー2015」にて全国46団体中の最高賞である環境大臣表彰を受賞するなど,調査・研究活動の成果が実を結びつつある。
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