研究課題/領域番号 |
26870401
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研究機関 | 広島大学 |
研究代表者 |
大野 晴也 広島大学, 医歯薬保健学研究院(医), 特任助教 (60725894)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 褐色脂肪組織 / 脂肪酸 |
研究実績の概要 |
前駆脂肪細胞の褐色脂肪細胞化にエイコサペンタエン酸(EPA)が与える影響を検討するため、その受容体のGPR120への特異的アゴニストであるGW9508を、マウスの鼠径部白色脂肪組織および、褐色脂肪組織より単離した前駆脂肪細胞へ加え、脂肪細胞への分化誘導を行い、その効果を検討した。GW9508の添加により、脂肪細胞の褐色化への分化誘導促進効果が期待されたが、予想に反して、脂肪分化そのものが抑制されており、褐色脂肪細胞への誘導効果は検討できなかった。これはGPR120受容体刺激に伴い、脂肪分解そのものが促進してしまうものと考えられた。この現象は、動物モデルにおいて褐色脂肪化を誘導するβ3アゴニスト投与が、細胞への投与により脂肪分解をきたすためその作用の再現が困難であることと近似していた。β3アゴニストを褐色脂肪細胞へ加えることで、UCP1などの褐色脂肪細胞特異的遺伝子が活性化されることが知られている。そこで、充分に分化した褐色脂肪細胞にGW9508を加え、その急性期の効果を検討したところ、GW9508添加により4時間後のUCP1のmRNA発現が増加しており、GPR120刺激に伴い、少なくとも急性期には褐色脂肪細胞が活性化されている可能性が考えられた。 またヒトでの褐色脂肪細胞の特色を検討するため、高カテコラミン血症により、持続的なβ3刺激にさらされている褐色細胞腫患者の腎周囲脂肪組織を採取し、非機能性腺腫患者から採取した同組織と比較検討した。褐色細胞腫患者においてはUCP1などの褐色脂肪細胞特異的遺伝子、蛋白の発現増加を認め、カテコラミンによる脂肪組織の褐色化が考えられた。またその活性化は褐色脂肪細胞分化に関わる転写因子PRDM16やEHMT1との有意な相関が認められた(Plos One, 2015)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
GPR120刺激により褐色脂肪細胞の活性化が認められており、今後その活性化機序の検討を進めていく予定である。EPAそのものを投与するのではなく、よりGPR120特異性が高いGW9508を投与することで、作用機序の詳細な検討が可能になるものと期待される。 マウスへのEPA投与実験においては、EPAの腹腔内投与によりマウスの体重減少効果を認めたものの、腹腔内の炎症も惹起されており、さらなる投与方法の改善が今後必要であると考えられる。特異的アゴニストであるGW9508の投与に切り替えて、その効果の検討を行っていく。
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今後の研究の推進方策 |
褐色脂肪細胞へのGW9508投与により、褐色脂肪細胞特異的遺伝子群の発現増加が認められたため、その機序につき詳細な検討を行っていく。GPR120シグナルはERKシグナルを活性化することが知られており、またERKの活性化によりUCP1発現が誘導されるとの報告がある。そこでGW9508投与とともに、ERKシグナルに関わる阻害薬数種を添加のうえ、その褐色脂肪細胞活性化効果を検討する。β3アゴニストと同様の効果を持つが、その機序は全く異なると推察されるため、同時投与により相乗効果の有無なども同時に検討していく。 マウスへのEGW9508投与も行い、褐色脂肪組織の活性化が起こるのかも検討していく。基礎代謝量の測定や、肩甲骨間褐色脂肪組織を採取し、UCP1などの機能に関わる遺伝子群、タンパクの発現レベルを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
マウスへのEPA投与により腹腔内炎症が生じ、当初計画していたその後の形態学的検討などを行わなかったため、余剰の助成金が生じた。かわりにGPR120の特異的アゴニストであるGW9508の細胞への投与などの実験をおこなっている。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度に繰り越された助成金も用いて、マウスへのGW9508、および他のGPR120特異的アゴニストをマウスへ投与する実験を計画している。
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