本研究は、日本の大学における障害のある学生(以下、障害学生)の支援の現場に注目し、障害等に由来するニーズにいかに対応するかについて、人類学的観点から調査・分析を行い、障害学生支援の現状整理を行うとともに支援の構造を明らかにすることを目的とした。 平成26年度に行った障害学生修学支援に関するアクターの洗い出し、平成27年度に複数大学の事例からヒントを得たアクセシビリティ支援の仕組みとその脆弱性への対応についての成果を踏まえ、最終年度である平成28年度は、障害学生修学支援のうち特に支援業務の要である相談対応と、課題が多いとされる人的支援について、アクター間の関係性に注目しながら検証した。 特定大学での障害学生支援のあり方を左右するアクターは、大学規模、立地、組織、カリキュラム、障害等によるニーズ等が挙げられるが、支援を実施するにあたっては、支援スキル、支援のための時間や場所などのアクターが重要となってくる。支援現場では、重要なアクターの確保が難しい場合に、代替するアクターの生み出しや活用が行われており、このことが柔軟な支援方法の形成に繋がっている。例えば、相談業務を行う人員が不足する場合は新たに相談用の「場所」を確保してスムーズな対応を目指したり、支援のための「機材」の導入を試行したりしている。また、遠隔ノートテイク等の新たな支援方法は、リアルタイムで授業が行われる場所に人員を配置するという従来型の人的支援で重要となる「時間」「場所」「人員」といったアクターの比重を軽くするものである。 障害学生支援アクターネットワークは、在籍する学生の支援ニーズ、担当部署と学内の他部署や学外機関・他大学との連携、支援機器の導入、人員の配置、カリキュラム変更等により随時、形を変えていくものである。障害学生支援のアクターネットワークの変成と今後のあり方については、今後の研究でも注目していきたい。
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