研究実績の概要 |
本研究の目的は、ラットの自然な寒冷時体温調節行動と考えられる「尾隠し行動(Uchida et al., 2012, J Comp Physiol A)」に対する女性ホルモンのエストロゲン(E2)の影響を明らかにすることである。本年度は【実験2】尾隠し行動を修飾するE2 のTRPM8への影響の解析を実施した。TRPM8とはTransient Receptor Potentialイオンチャネルファミリーの一つで皮膚に分布する感覚神経終末に発現し、環境温25℃以下の軽度な寒冷時に活性化する冷受容分子である。エストロゲン(E2)投与、非投与の卵巣摘出ラットの背部にvehicleまたは10%メントール(TRPM8作動薬)を塗布し、寒冷(16℃, 2時間)または室温(27℃, 2時間)暴露し、腹腔温、尾部皮膚温、尾隠し行動を計測した。以下の結果を得た。 (1) メントールは寒冷でも室温時でも、E2の有無に関わらず、体温を上昇させた。またメントールはE2の有無に関わらず、室温時には尾部皮膚温を上昇させ、寒冷時には下降させた。 (2) E2は寒冷時にメントール塗布した時、体温と皮膚温に影響しない。しかしE2は室温時に、メントール塗布による皮膚温の上昇を抑制した。このとき、E2はメントール塗布による体温上昇を抑制した。 (3) メントールは室温時、E2投与時のみ、尾隠し行動を低下させた。 【結論】メントールは雌ラットの体温を上昇させ、寒冷時は皮膚温低下、室温時は上昇させる作用があることが示唆された。E2は室温時にのみ、このメントールの作用を減弱させることが示唆されたが、個体数が少ない為、今後追加実験を行い検討する予定である。
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