研究課題/領域番号 |
26870418
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研究機関 | 総合地球環境学研究所 |
研究代表者 |
齋藤 有 総合地球環境学研究所, 研究基盤国際センター, センター研究員 (60469616)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 掛川層群 / 泥岩 / Sr-Nd-Pb同位体比 / 海水準変動 / 供給源 / 四国海盆 / 黄砂 |
研究実績の概要 |
東海地方に約300から100万年前に形成した前弧海盆充填堆積物である掛川層群の泥岩層についてSr-Nd-Pb同位体比による供給源解析を行った.掛川層群はシーケンス層序が先行研究によって確立しており,海水準変動が砕屑物供給に与える影響を評価するのに適している.2015年度に掛川層群より採取した泥岩24試料に含まれる20ミクロン以下の成分を,炭酸塩と鉄水酸化物を除去した上でフッ酸分解し,TIMSでSr-Nd同位体比,MC-ICP-MSでPb同位体比を測定した.その結果,海水準に関連して変化する同位体変動が検出された.2015年度に明らかにした,日本列島の河川堆積物の同位体比と比較した結果,低海水準期の泥岩と高海水準期の泥岩は,現在の天竜川,大井川,木曽川などの堆積物と類似した同位体比を示し,それら河川の流域である白亜紀の花崗岩や変成岩,ジュラ紀の付加体堆積岩などからなる地質帯を主な後背地としたことが示唆された.また,高海水準期より低海水準期の泥岩の方が同位体比の変化が大きく,沖側の環境で富士川と共通する地質体からの寄与が示唆される.それに対し,海進期の泥岩の同位体比は,それらの河川の堆積物の値とは若干ずれ,黄砂の寄与が示唆された.以上のことから,1) 低海水準期(3-2Ma)には陸棚が拡大したことによって多くの河川から堆積物が供給されたこと,2)海進期(2-1.8Ma)には,堆積空間の増大によって日本列島からの供給が減り,黄砂の寄与が相対的に増大したこと,3)高海水準期(1.8-1.6Ma以降)には,堆積空間の減少によって日本列島からの供給が再開するが,供給源は距離的に近い天竜川流域の地質帯に限定されたこと,などが推定される.四国海盆の掘削試料も2-1.8Maに掛川層群と類似する同位体比の変化を示すことから,海水準変動が広域的な供給源変動にも影響していることが示唆される.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
掛川層群泥岩の同位体比変動を明らかにしたことで,新生代新期に日本列島が供給してきた堆積物の同位体変動幅に関する情報を得ることが出来た.しかし,3Ma以前の変動幅や地域差について評価できる東海層群や宮崎層群については,泥岩試料は収集済みであるが分析には取りかかれていない.一方,掛川層群の研究により,供給源をプレート運動のトレーサーとする上でノイズとなる海水準変動の影響をある程度評価することができた.しかし,その結果を確実なものとして公表するためには試料数が不十分で有り,追加サンプリングをする必要がある.フィリピン海プレート上(四国海盆)の堆積物についても,四国沖の試料が未入手で有り,IODPにリクエストする必要がある. 日本列島の河川堆積物のSr-Nd-Pb同位体のバリエーションについて論文執筆中であるものの,予定ではすでに投稿できているはずであり,若干遅れている.海底での地域変化を明らかにするための海底表層堆積物については,試料採取はほぼ完了しているが,同位体分析はまだ一部しか完了していない.
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今後の研究の推進方策 |
日本列島の河川堆積物のSr-Nd-Pb同位体比の分析結果の論文化を急ぐ.掛川層群の試料を追加採取し,海水準変動に応じた同位体変動が確実に存在することを明らかにしたうえで論文として公表する.万一,海水準との変動が明らかとはならない結果となった場合にも,データ論文として公表する.東海層群と,宮崎層群の泥岩試料の同位体分析を行い,四国海盆の主供給源である日本列島が排出してきた堆積物自体の時代変動および地域差を評価する.ODP leg190で四国沖南海トラフのSite1173及び1177より掘削された,四国海盆堆積物に相当するコア試料を入手して同位体分析を行い,これまで明らかにした供給源側のデータと比較することで,プレート上堆積物の供給源を精度良く特定し時代変動を明らかにする.日本列島からの供給物自体の時代変動幅や海水準変動の影響を差し引き,堆積物供給源が,プレート運動のトレーサーとしてどの程度有用であるかを評価する.
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次年度使用額が生じた理由 |
論文執筆が完了しなかったことにより英文校閲費が消費できなかった.
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次年度使用額の使用計画 |
前年度未完了の試料分析の経費と,英文校閲費に使用する.
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