昨年度より取り掛かっていた「非対称情報」が存在する動的マッチング形成問題についての研究は、昨年度の成果(均衡分析など)に続いて比較静学の分析をさらに深く進めることができた。具体的には、昨年度は毎期ごとにマッチ相手の候補者に出会う確率が各個人の候補者に対する受け入れ行動(戦略)に及ぼす影響について分析を行ったが、本年度はそれが最終的なマッチングに与える効果、そして、候補者のタイプを見誤る確率が各個人の戦略や最終的なマッチングに与える効果について分析した。年度中に論文にまとめることはできなかったが、今年度を通して得られた成果は動的マッチング形成の研究に非常に重要な貢献をもたらすものと確信している。 さらに今年度は、学校選択やゼミ配属などに見られるメカニズムを用いてマッチング生成を行う場面においての新しい選好申告の方式を検討し、「リクエスト構造」という注目すべき方式を提案するに至った。従来のマッチング生成メカニズムにおいて各主体は完全な選好順序(マッチの候補者全員に対する優先順序)をメカニズムに対し申告する必要があるが、現実においては必ずしもすべての主体が完全な選好順序を持っているとは限らない。そこで、リクエスト構造においては各主体に要求する選好情報をいくつかの限られた候補者集合からの選択の結果のみにとどめ、マッチング形成の手続き上必要にならない選好情報を各主体に収集・提出させる手間を省くことができる。今年度は、この構造を従来のメカニズムに適用する場合に本来メカニズムが持っていた諸性質(安定性や耐戦略性)は保存されるのかについての分析を行った。
|