研究課題/領域番号 |
26870424
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
田中 啓之 名古屋大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任助教 (40547832)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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キーワード | 電子スピン / 安定有機ラジカル / 電子輸送性材料 / アモルファス薄膜 / 薄膜デバイス |
研究実績の概要 |
本年度は,研究計画に示した安定有機ラジカル種を置換基として導入した電子輸送型アモルファス分子材料の合成を行った.電子輸送性アモルファス薄膜内のホッピング伝導電子のスピン状態を制御する手法として,電子アクセプター分子ユニットに安定有機ラジカルを導入し,アクセプターユニット間をホッピングする伝導電子と有機ラジカルの局在電子との間に働く電子-電子間交換相互作用を利用する.具体的には,強い電子親和性を有する電子アクセプター分子に安定有機ラジカルであるtert-ブチルニトロキシド (t-BuNO●)をm-phenylene型連結の形で導入した.電子アクセプター分子には強い電子親和性を有し,電子輸送性材料として実績のあるトリフェニルトリアジンを用いた.3つのフェニル基にt-BuNO●をm-phenylene連結型に導入した安定ラジカル導入型電子輸送性分子を合成した.また,薄膜形成後のアモルファス性(ガラス状態)を維持するために,フェニル基に種々の嵩高い置換基を導入することで分子の凝集を抑制し,ガラス転移温度が高くなるように分子骨格をチューニングした. 電解還元によりアクセプターユニットであるトリアジン上に生成するラジカルアニオン(TRZ●-)とt-BuNO●間に働く交換相互作用を実験的に検証するために,サイクリックボルタンメトリー(CV)と電子スピン共鳴法(ESR: Electron Spin Resonance)のin-situ測定(電解ESR法)を行った.CV測定によって合成サンプルの電解還元波を検出し,トリアジン上に生成するラジカルアニオンTRZ●-の安定性とt-BuNO●との電子間交換相互作用に与える影響を調べた.また,電解ESRスペクトルの測定結果のスペクトルシミュレーションより,TRZ●-とt-BuNO●との間に働く電子間交換相互作用(J)を現在,解析中である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の要となる安定ラジカル導入型電子輸送性分子とその類縁体の合成は行えたが,測定環境の不備(当初,研究実施を予定していた研究機関からの異動による)により各種特性評価(DSCやXRDによる薄膜解析や電解ESR測定)の進捗が遅れているのが実状である.電子スピン制御能の評価は,本研究にとって非常に重要な課題であり,早急に進める必要がある.
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今後の研究の推進方策 |
今後の推進方策として,速やかにESRスペクトルの解析を進めてt-BuNO●とTRZ●-間の電子-電子間交換相互作用Jを見積り,合成開発した安定ラジカル導入型電子輸送性分子の電子スピン制御能を明らかにする.また,スピンコート法によるアモルファス薄膜の作製とDSCやXRDなどによる薄膜評価を進める.さらに,真空蒸着装置を用いた薄膜積層型デバイスの作製を試み,スピントロニクス機能(スピン偏極電子の生成や磁気抵抗効果)の発現を外部研究機関研究者の協力を得て検証する.
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究計画は①材料合成と②デバイス作製・特性評価の2部から構成される.本年度は,材料合成とその基礎特性評価に関して研究を実施した.そのため,本年度の支出額は研究助成金全体の半分以下に留まった.次年度は,デバイス作製・特性評価を予定しており,高額な備品などの購入を予定している.必要に応じて,外部研究機関への出張も予定しており,当初の予定通りに予算執行を行っている.
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次年度使用額の使用計画 |
本年度に引き続き,デバイス作製・特性評価に必要となる材料の合成を行うため,合成試薬・薬品の購入を行う.基礎特性評価において,所属研究機関外での実験を予定しているため,その際の出張費も予定している.次年度は,デバイス作製・特性評価を予定しており,高額な備品(パターンITO基板や蒸着用分子材料)などの購入を予定している.デバイス特性評価において,必要に応じて,外部研究機関への出張も予定している.また,次年度は本研究の最終年度となるため,学術論文執筆の際の英文校正費や国内外での学会発表のための出張費も予定している.
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