研究実績の概要 |
本研究課題の要となるスピン偏極電子を創製するための分子材料の合成開発を行った.電子スピン状態の制御手法として,強い電子親和性を有する電子アクセプター分子に安定有機ラジカルであるtert-ブチルニトロキシド(t-BuNOラジカル)を導入し,ホッピング伝導電子と有機ラジカルの局在電子との間に働く強磁性的交換相互作用を利用する.具体的には,電子輸送性材料として実績のある2,4,6-tri-phenyl-1,3,5-triazineにt-BuNOラジカルをm-phenylene連結の形で導入した.磁気的相互作用の増強として,3つのフェニル基にC3構造対称となる様にt-BuNOラジカルを導入した安定ラジカル導入型電子輸送性分子を合成した.また,薄膜形成後のアモルファス性を保持するために,フェニル基に種々の嵩高い置換基を導入することで分子の凝集を抑制し,ガラス転移温度が高くなるように分子骨格をチューニングした. 電解還元によりtriazine上に生成するアニオンラジカル(TRZアニオンラジカル)とt-BuNOラジカル間に働く交換相互作用を実験的に検証するために,サイクリックボルタンメトリー(CV)および溶液CW-ESRスペクトルの測定を行った.CV測定により化合物の電解還元波を検出し,TRZアニオンラジカルの安定性を確認した.更に,CVとCW-ESRの同時測定(電解ESR法)を行った.スペクトルシミュレーションの結果より,TRZアニオンラジカルとt-BuNOラジカルの間に期待通りの強磁性的交換相互作用が働くことを確認した. 続いて,塗布方式による基板上へのアモルファス薄膜の作製を行った.具体的には,スピンコート装置を用いて化合物の溶液を基板上に塗布した.成膜後の薄膜状態とアモルファス性の評価は,原子間力顕微鏡による表面観察やX-ray回折法などにより行った.種々の測定結果より,作製した薄膜がアモルファス性を保持していることを確認した.
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