ナス科植物であるダツラにはトロパン骨格を持つ薬理学的に重要な化合物が含まれている。中でもアトロピンやスコポラミンは抗コリン作用を示すことが知られており、散瞳や鎮痙、鎮痛薬として用いられている。これらの化合物はオルニチンをスターターとして合成されることが分かっており、いくつかのステップに関しては反応を触媒する酵素が同定されているが、トロピノンを合成するステップについてはポリケタイド合成酵素が関与すると考えられるものの、まだ明らかとなっていない。そこで、大腸菌を用いてポリケタイド合成酵素の大量発現系を作製し、構造および機能を解明することを目的とし、研究を開始した。 前年度までにダツラやハシリドコロからポリケタイド合成酵素と考えられる4種の新規遺伝子のクローニングを行い、大腸菌での発現系の構築、酵素反応条件の検討、さらにはハシリドコロ由来ポリケタイド合成酵素の約2オングストロームでの結晶構造解析に成功した。 今年度は酵素活性の測定について、様々な種類の基質の組み合わせや酵素反応液のpH等についても詳細な条件検討を行った。 酵素反応によって得られた生成物が何であるかについてLC/MSを用いて調べた。アルファルファのカルコン合成酵素の立体構造と、ハシリドコロの立体構造はかなり類似したものであったが、同じ基質から得られる反応生成物は全く異なるものであった。この原因として、活性部位や基質結合部位に存在するアミノ酸残基の違いが考えられる。異なるアミノ酸残基等に注目し、変異体酵素の作製を行い、アナログ基質との相互作用解析及び結晶構造解析などを行うことによって反応メカニズムを明らかにしていきたい。
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