研究課題/領域番号 |
26870427
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研究機関 | 別府大学 |
研究代表者 |
針塚 瑞樹 別府大学, 文学部, 講師 (70628271)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 若者 / インド / 児童養護施設 / 自己決定 / キャリア形成 / 結婚 / 教育 |
研究実績の概要 |
1990 年代からインド政府は NGO と連携して、すべての子どもに対する福祉と教育の保障に取り組んでいる。その結果、労働や路上生活を経験したストリートチルドレンとよばれる子どものなかで、NGO の児童養護施設で暮らした経験のある者は少なくない。本研究は、インドの児童養護施設出身の若者が有する複数の準拠集団の特徴と、若者が共同的関係性を深化・拡張するうえで複数の準拠集団がもつ相互補完的役割を明らかにすることを目的とする。子どもの頃に家族という共同体を離れ、児童養護施設という共同体に接触した若者のキャリア形成と結婚における選択・ 決定の場面に注目して、若者にとっての共同体的存在の成立条件とその性格の検討を目的とする。 NGO の施設で暮らした若者の多くは、施設を出てからも教育や就職 の面で NGO のサポートを受けており、その多くが家族に仕送りをする、家族を都市に呼び寄せるなど、家出という形で一度は途絶えた家族との関係性を再構築をしている。さらに、これらの若 者の多くは都市で働き、家族の中で最も経済力を得て、故郷にいる兄弟姉妹の教育や就職、結婚について、リーダー的役割を担っていることが少なくないことが明らかとなった。本研究は、今日、家族やカースト集団などの個人が存立しうる基盤の欠如が指摘される南アジア社会(水島 2002)において、児童養護施設出身の若者の選択・決定の基盤となる準拠集団の特徴を明らかにすることを目的としている。家族に頼ることができない若者の共同的関係性の成立条件を明らかにすると同時に、現代インド都市社会に生きる個人が基盤とする共同体の今日的状況を捉えようとするものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初年度においては、若者の就労や結婚、南アジア社会における共同体や社会関係に関する文献研究と 2回の現地調査を実施する予定であったが、現地調査を1回としたことで、進捗状況はやや遅れている。施設出身の若者の多くが居住するデリーにおける、施設職員、施設出身者と私立大学卒業生のうちデリー在住者へのインタビュー調査を行った。その結果、施設出身者に関しては以下の点が明らかとなった。
1)NGO施設出身者の生活実態と社会関係の把握 NGO施設出身者の生活実態と社会関係に関するインタビュー調査では、NGO施設とつながりを有している若者の多くが、NGOを自身の属する共同体の基盤としつつも、その下位グループとしての同時期に施設を出た仲間集団、さらにその下位グループとしての同居あるいは近隣共住の仲間集団を形成していることが明らかとなった。 2)工学系私立大学卒業生の卒業後の就労状況と社会関係の把握 卒業生のうち4名(内2名はNGO出身者)の卒業後の就労状況と社会関係について予備的なインタビューを行った。NGO施設出身者は、大学院への進学を望みつつもNGOの社会関係を通じて就職をしていた。その他の卒業生は大学院進学を目指して、進学塾に通っていた。故郷から離れて暮らす彼らにとっては、同じ進学塾に通う同じ大学出身者とデリーに在住の親族とが、日常的に交流を行う重要な社会関係となっているようであった。
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今後の研究の推進方策 |
今年度は初年度の調査で得られたデータを整理し、施設出身の若者のキャリア形成と結婚における選択・決定について準拠した個人・集団について詳しいインタビュー調査を行う。9月の現地調査では、施設出身者のうち①施設との関係の疎遠なグループと、②施設との行き来を頻繁に行っているグループの両方について、インタビュー調査を行う。また、施設との行き来をしているグループについては、前回調査時に明らかになった、下位グループ単位で生活と仕事の実態の観察とインタビュー調査を行い、グループ内における個人間の関係性と、グループ間の関係性の両方を明らかにする。さらに、施設出身の若者 2名を中心に、彼らの家族、親族に対してインタビューを行う。今年度2回の現地調査を行い、成果を論文にまとめる。
1)施設出身の若者が選択・決定を準拠する個人、集団と若者との関係性の実態と意識 施設出身の若者にとっての準拠集団について、NGO施設、施設出身者の集団、故郷の家族・親族、結婚による家族・親族、仕事を通じた社会関係など、それぞれどういった場面での選択・決定の準拠集団となっているのか、実態と意識に即して明らかにする。 2)若者の選択・決定における複数準拠集団の相互補完的役割と共同的関係性の深化・拡張 1)で明らかにした、若者にとっての準拠集団が、若者が選択・決定を行う際に相互補完的に機能している可能性について検討する。特に、キャリア形成、家族生活といった場面に注目し、どのような場面でどのような集団に準拠して、選択・決定を行っているのか、さらに、NGO施設を基盤とした共同体を得た若者にとって、施設等で暮らした経験のない若者との比べた場合に、複数の準拠集団が相互補完的に機能することで、若者の選択・決定の充実と共同的関係性の深化・拡張に寄与しているのかどうかについて、検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2回予定していた現地調査を1回しか行わなかったことと、関連するテーマのほかの研究費からの渡航費を該当して行ったため旅費支出が減ったが、予定より多くの書籍購入を行ったため物品費支出が増えた結果、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
これまでの調査データの書き起こしと、次年度予定している2回の現地調査とそのデータの書き起こし等合わせて、当初予定より支出が増えることが予定される。
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